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第452話
屋久の蒼眼に、僅かながら感情が滲む。
悔しそうな……嫉ましいような……
「……」
多分、だけど……向けられた若葉の目が、自分を下卑しているように見えたのかもしれない。
「若葉を上手く調教し、俺が飼い主となれば──桐谷の件だけじゃない。他の何事でもスムーズに事が運ぶと思った」
「……」
「……若葉に拘ったのは、そんな理由からだよ」
屋久の手が、僕から離れる。
顔を上げると同時に、サラサラと綺麗に流れる金色の横髪。
その一本一本が、窓辺から射し込む柔らかな光に溶け込み、より一層輝きを増す。
「……」
だけど……屋久を取り巻く空気は、何だか寂しそうで。
離れてしまった手を縋るように、屋久をじっと見つめる。
「……」
何だろう……
根幹は一緒なのに、吉岡から受けた時とは印象が違う。
吉岡は、自身と似たような逆境に産み落とされ、心を穢しながらも自力で生き抜こうとする若葉を、何処か崇拝するような話し方だった。
………だけど、屋久はその反対で。
自身が成し遂げられなかった境地に達し、裏社会という闇の中でも美しく輝いて見える若葉を──羨ましくも嫉ましく思っていたのかもしれない。
僕が、アゲハに抱いたように。
「………それからだ。
俺の中で、何かが崩壊していったのは──」
麻薬の独自ルートを築き、生産者と販売者を着実に増やしたお陰で、スネイクは更に成長。
元リーダーである菊地がいなくても、自分にはその手腕があると周囲に見せ付ける事ができた。少なくとも、兄貴分である桜井には。
しかし───
「……よぉ、お前ら。元気だったか?」
古びた雑居ビルの上層階。
そこで行われていた定期集会に突如現れたのは──全身白尽くめの男。
髪や服は勿論、睫毛や爪先、瞳の色に至るまで、文字通り白一色。その異様な風貌に加えて全身から放たれる、強烈なオーラ。親しげに投げられた言葉とは裏腹に、声は無感情。サイボーグの如く、表情も一切ない。
その男の登場により、ピンと張っていた空気に亀裂が走る。
「──ふ、深沢さん……!?」
ザワザワ……
その声を皮切りに、集まったグループリーダー達がどよめく。
「あぁ?! 誰だテメェ……」
腕組みをし、屋久の陰に控えていた基泰が、ドスを利かせて深沢に詰め寄る。
「………あれ、桜井から聞いてねーの?」
飄々とした態度ながらも、ガタイの良い基泰を馬鹿にしたように見下す。
背後にいた屋久にチラッと視線を移した後、僅かに口端をクッと持ち上げた深沢がメンバーのいる方へと身体を向ける。
「今日から菊地に代わって、俺がスネイクのリーダーだ」
「──!!」
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