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第494話
不意に漏れてしまったんだろう本音に、胸の奥がズキンと痛む。
「……うん。いいよ」
そう答えれば、基泰の瞼が持ち上がる。
「本当か!?」
「ん……蕾も連れてってくれるなら、……僕を、基泰の……好きにして」
「……」
蕾も一緒に、逃げられるなら……
そう願いながら答えたものの、予想に反し、基泰の表情が険しいものに変わっていく。
「………蕾、か」
再び憂いを帯びる瞳。スッと僕から外され、窓の外へと向けられる。
「……」
カーラジオの音すらない、静かな車内。
運転をしているタクが、ルームミラー越しに基泰の様子を窺ったのが解った。
「こんな事、言っていいかわかんねぇが……」
ネオン街を抜け、街灯りが減り、窓から映る景色が寂しいものに変わると、ぽつりとそう呟いた基泰が此方へと顔を向ける。
「太一 が暴走してお前を襲ってた時、俺と基成は……別の部屋にいたんだ」
「………え」
驚きを隠せず基泰を見れば、分が悪そうな目付きで僕を見ていた。
「各部屋に取り付けた、監視カメラの映像を観る為の部屋で……普段は鍵が掛かっていて、基成しか利用しねぇ」
「……」
「あの日は、何かおかしかった。最初から。何もかも。
俺が付いていく必要もねぇ用事に付き合わされ、誰も寄せ付けねぇその部屋に、帰って早々招かれた。
映し出されたモニターに、さくらが襲われてんのを観て……俺は、止めに行こうとしたんだ。
さくらがいいようにされてんのを、黙って観てられる様なタマじゃねぇからな」
「……」
「けど、そんな俺を……基成は止めやがった」
立ち上がった基泰の手を掴み、引き止める屋久。何事も無かったかのように。冷静にモニターを覗きながら。
「見ろよ。……やっと蕾を、手懐けたようだ」
「──まさかお前、最初からさくらを嵌めようと……」
「まさか。そろそろ奴等が痺れを切らす頃だとは思っていたけどね」
モニターから放つ光が、基成の瞳を怪しげに煌めかせる。
「何方にしても、全ては想定通り。……後は、姫自身がこの危機的状況を上手く乗り越えられるよう、成長して貰わないとね……」
「……」
……そんな……
あの時の状況を、淡々と観察していたのかと思うと、虫唾が走る。
目的の為なら、手段を選ばない。……例え誰かを、傷つけようとも。
「………基成は……僕を、どうしたいんだろう……」
そう漏らすものの、その答えなら何となく解ってる。
太一が言っていたように、僕を若葉の代わりにしようとしている。
僕の中に眠る『インナーチャイルド』を優位にして、若葉みたいな事をさせるつもりだ。
……じゃあ、蕾は……?
僕が手懐けたとして、蕾をどうするつもりだったんだろう。
「さぁな。
……ただ、このまま基成といても、ろくな事にはならねぇってのだけは、確かだ」
「……」
そう言い放った後、考え込むように再び窓の方へと顔を向けた。
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