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第495話 公開撮影
×××
蕾も連れてってくれるなら──その約束を、基泰は果たそうとしてくれていたんだろう。
だけど……
「……おかえり、姫」
箱庭のある古民家に戻り玄関のドアを開けると、既に戻っていた屋久が僕の帰りを待ち構えていた。
その目付きは鋭く、冷徹で。透き通った蒼い色も相まり、氷を抱いたような悪寒が背筋を走る。
「俺の許可無く、基泰と何処に行っていたのかな?」
「……」
「ん?」
僕の目の前に立ち、硬直する僕の顎に指を掛けてクイッと持ち上げる。
「……」
「ちょっとな。……気晴らしのデートだ」
庇うように、基泰が僕の横に並び肩に腕を回す。反対側の二の腕を掴まれ半ば強引に寄せられれば、その温もりに不思議と安心感を覚える。
柔く瞬きをし、無理にでも屋久から視線を外すと、隣に立つ基泰を見上げた。
「約束通り、手は出してねぇ。……ラブホに連れ込んで、ヤりまくりたかったけどな」
「……」
冗談ぽくそう言い放ち、口の片端を持ち上げてみせる。その瞳は柔く、冷徹な屋久とは真逆な印象を受ける。
もう一度、基泰の視線を辿って屋久を見てみれば、基泰の真意を透かすように冷たいガラス玉がじっと見据えていた。
「………確かに。基泰にしてはよく我慢してるよ。でもね──」
口端をクッと持ち上げ、顔を僅かに伏せながら瞼をそっと下ろす。
トン……足先を背の高い基泰に向けて立つと、下から睨みつけるように眉間にしわを寄せる。
「──俺の許可無く、姫を外に出すんじゃねぇよ」
二階の小さな箱庭。
僕の為に用意したという、カウンター・バスルーム付きの部屋。
屋久を先導に部屋へ入れば、四人掛けのダイニングテーブルに、二人の男が互い違いに座っていた。
男の前には、チーズの盛り合わせとワイングラス。口に合わないのか。それともまだ来たばかりなのか。その殆どが手付かずのまま残っていた。
「待たせたな」
入るなり屋久がそう挨拶をすれば、二人の男が首を少しだけ伸ばし、視線を此方に向ける。
「……」
「……」
その目付きは悪く、仄暗さを秘めていた。
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