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第496話
「……誰だ、アイツら」
「客人だよ」
「客?」
「そう。これからここで、姫を『撮影』をするからね。……招待したんだよ」
そう言った後、基泰に顔を寄せた基成が、男の方に視線を向けたままそっと耳打ちする。
「手前に座っているのは、俺らが世話になってる会員制SMクラブの従業員だ。オーナーの藤田は多忙でね。リモートでの参加を希望している。
配信さえ怠らなければ、あの従業員を護衛でもパシりでも、何でも好きに使っていいらしい」
「……」
振り返ったその男が、軽く会釈をする。
ガッシリとした身体つき。恐らく、基泰よりも大きいんだろう。太い首。広い肩幅、背中。肩や腕の筋肉が盛り上がっているのが、黒スーツ越しからも解る。
「……で。その向かいに座っているのが、大物専用会員制デリバリーヘルス『J- Angel』の現オーナー、隼人 だ」
ツンと毛先の跳ねた、短い黒髪。左耳には、ゴールドのリングピアス。
鋭く吊り上がった双眼。心の奥底までを見透かすような、尖った視線。
「……」
それが、真っ直ぐ僕に注がれる。
J-Angelの創設者──凌のような人当たりは無く、触る者全てを容赦なく嬲り殺す気迫さえ感じた。
「──おぃ、基成」
カタッ……
テーブルに片手を付き、腰を浮かせた隼人が僕をじっと見据えたまま口を開く。
「まさか……そこに突っ立ってんのが、例の『姫』じゃねぇだろうなぁ……!?」
懐疑的な目。緊迫する空気。
話が違うとばかりに、隼人が噛み付く。
「………そうだ、って言ったら?」
「随分と……ガリガリじゃねぇか。……抱き心地は悪そうだし、男を誑かせるとも思えねぇな」
隼人の黒眼が上下に動き、僕を値踏みする。
その視線から逃れ目を伏せれば、僕の背後に基成が立つ。
「誑かすよ、姫は。……感度も抱き心地も、匂いも悪くない」
「……!」
背後から僕を抱き締めた後、僕の首筋に鼻先を近付ける。
そして見せ付けるように、鎖骨から胸元に向かって、基成の右手がタンクトップ内に滑り込む。
「何なら、試してみるか?」
「……男に興味はねぇ」
基成の返しにそう吐き捨てると、隼人がチッと顔を顰 めた。
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