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慮外 2

 月曜日になり、何か言ってくるかとおもいきや、職場での石井はいつもと変わらない。  必要最低限の言葉しか口にしない男に話があると会議室に押し込んだ。 「なんです?」 「なんです、じゃねぇよ」  昨日のアレは何なんだと言いかけて、迷惑そうな表情を隠そうとはしない石井にキレてしまった。 「前々から態度悪いよな、お前」 「それで大浜さんに迷惑を掛けましたか?」 「なんだって」  迷惑を掛けたとかそういう事ではない。その態度が不愉快にさせる事を解らないのだろうか。 「仕事をきちんとこなせば文句はないですよね? それとも貴方みたいに他人に愛想を振りまいて調子のいいことばかりいえとでも」  調子の良い事ばかり言っているつもりはない。コミュニケーションも大切だし、助け合うのは当たり前。時に冗談を言ったり話をして笑いあう、それの何がいけないというのだろう。 「俺が、いつ」 「誰にでも食事に誘いますよね」 「なっ、それの何が悪いっていうんだよッ」  食事をして、いろんな話が出来たらと思って誘っているだけだ。石井にとってそれは調子の良い事になるというわけか。 「はい、そこまで」  パンと手を叩く音が聞こえてハッとそちらへ顔を向ける。  売り言葉に買い言葉。いつの間にか声が大きくなっていたようで、心配した柴が間に割って入ってくれたのだ。 「孝平君、今のは良くない。大浜君もだよ」 「叔父……、社長」 「すみません」 「僕じゃなくて、お互いにごめんなさいしようね」  ほんわかとした雰囲気にぎすぎすとしていた空気を包み込む。 「すまなかった」 「俺も、言い過ぎました」 「うん。じゃぁ、仲直りの握手」  柴が二人の手を掴んで互いに握らせる。  石井の手は冷たく、握手をした瞬間に、微かだが表情が緩んだ気がした。  つい、口に出てしまっただけなのだろう。 「孝平君、おいで」 「解った」  頭を下げて柴についていく。  するとすぐに後輩の杉原が寄ってくる。 「流石、社長の癒しオーラ」 「はは、そうだな。助けられた」  自分の言い方が悪かった。故に売り言葉に買い言葉となってしまったのだ。 「こういう時は甘い物を食べましょ?」  と掌に飴玉を二個おいた。 「一個で良い」  飴を一つ返そうとすれば、その手を押しとどめられた。 「やだなぁ、一つは石井のですよ」  これを切っ掛けにといっているのだろう。気の利く男だ。 「ありがとう」  一つは口の中に、もう一つはシャツのポケットへとしまう。  席に戻ってきたらそれを手渡して謝ろう。    だが結局、その後は柴の手伝いをすることになり席には戻ってこなかった。  直接に謝るタイミングを失い、デスクの上に飴玉とメモ帳に「悪かった」と書いて置いておいた。

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