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故意 1

 白い箱の中にはココア味のくまさんと、いちご味のうさぎさんのケーキが仲良く並んで入っている。  アレルギーのある子供でも食べられるようにとスポンジは米粉で作られていて、豆乳ホイップを使ってある。  双子の甥と姪は牛乳アレルギーで、いつもケーキは弟の嫁が手作りをしているのだが、テレビで動物の形をしたケーキを見た時に、食べたいと駄々をこねた。  ネットでアレルギーの子の為にケーキを作ってくれる所は無いかと調べていた時、先輩である加藤の同居人がLe・シュクルでパティシエをしているという事を聞いた。  加藤に事情を話し、相談に乗ってもらえないかと聞いてもらったところ、直接会って話してみろよと家に招待され、アレルギーの子でも食べられるケーキを作ってもらったわけだ。  美味しいと可愛い笑顔を見せてくれて、それを動画で撮り、お礼と共に二人に見せたら喜んでくれた。  今度、遊びに行くときに買ってきてやると約束したら、紙で作ったくまとうさぎの耳をつけて、 「おじちゃん、楽しみに待ってます」  と声をそろえて言い、可愛く踊る動画が送られてきた。  甘やかすなと弟の嫁に怒られてしまうが、両親同様に甥と姪にメロメロなのだ。  二人の喜ぶ顔を想像しながら歩いていたら、何かが足に絡みついてきて下を向けばそこにビーグルが居る。 「またか」  きっと飼い主はアイツだろうと思っていたら、土手をゆっくりとのぼってきた。 「お前ね、また逃げられたのかよ」  リードを掴んで石井の方へと手を伸ばす。 「……どうも」  これ以上、石井と話していたくはない。 「じゃぁな」  素っ気なくそう口にしてこの場を立ち去ろうとするが、 「あっ」  引き止めるように石井が声をあげる。手をすっと引き、もしかして今、自分を捕まえようとしていたのではないだろうか。 「なんだよ」 「飴」 「あぁ、あれは杉原がお前にって」 「そうですか」  何故か不機嫌そうな顔をする。飴を置いたのが迷惑だったのだろうか。あれは杉原が自分たちの事を思っての気遣いであって、そんな顔をさせるためのものではない。 「あれは俺達が気まずくならないようにって」 「はい。あの件に対しては本当に申し訳ありませんでした」  と深く頭を下げる。機嫌が悪いのかと思えば素直に謝ってくる。石井という男は本当によくわからない。

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