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接吻 3

「ごめん」 「……いいえ。すみませんが、今日は帰ります。大浜さんはゆっくりと展示物を見て行って下さい」  手が引き離されてしまう。  背を向けて歩き出そうとする石井を再び引き止めた。 「待って、俺も帰るよ。人が多いし、ゆっくり見れないしさ」 「勝手にしてください。俺は一人で帰ります」 「あぁ、もう、そうじゃなくて、石井、外に出よう」  ここで揉めていたら迷惑になる。  先ほどからチラチラと博物館の職員がこちらをみていて、石井もそれに気が付いたか、わかりましたと素直に従った。  博物館から出てから無言のまま、電車に乗り改札を出た。  いつもの川沿いの道を石井の後ろからついてあるく。 「今日は悪かったな」  そう背中に声を掛ければ、 「いいえ」  こちらを見る事無く言葉が返る。 「怒ってるよな」 「はい」  要約、足が止まり、そして石井がこちらへと振り向いた。  眉間にしわがよっている。機嫌が悪いとそういっている。 「なぁ、再チャレンジさせてくれないか」  そう口にすれば、やっと少しだけ表情が緩んだ。 「また一緒に行ってくれるという事ですか」 「あぁ。またデートしよう」 「やり直しをさせてあげます」  よかった。  ホッと息をつき、笑いかける。 「ありがとう」  石井の手が頬に触れ、そして唇に暖かいモノが触れた。  キスをされた。  驚いたけれど、嬉しそうに口元を綻ばす石井の姿を見た瞬間、彼の後頭部に手を回し唇を重ねていた。  今度は石井の方が驚いたようで目を見開きこちらをみるが、すぐにそれは欲を含んだものへとかわり、舌が絡み合う。  水音をたてながら夢中で口づけしあい、そして熱は離れていく。 「どう、して」 「聞くな」  と指を唇に押し当て、そして離すと同時に彼に背を向けた。  あのキスの事を聞かれても困る。それに恥ずかしいからだ。 「わかりました。勝手に解釈します」 「おう、そうしてくれ」  博物館へ行く日は改めて決めるという事になり、その日はこれで別れる事となった。  石井があまりにもいじらしいものだから、キスをしかえしていたのかもしれない。 「いや、それだけじゃないか」  ぼそっと口からこぼれた言葉に、ハッとなり口元を押さえる。  それだけで男にキスなどするものか。 「可愛いって、思いはじめてるしな」  後輩としてじゃない。一人の男として……。

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