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接吻 2

※※※  何分か前に駅へ着くように歩いてきたのだが、既に石井の姿はあった。  大浜の姿に気が付いたが、頭を少し下げた。 「もう来てたんだ」 「浮かれてますよね」  どれだけ楽しみにしていたんだろうか。  それを思うと頬が緩んできて、ばれないように顔を背ける。 「行くぞ」 「はい」  改札を抜けホームに立った。  大相撲が始まると、相撲のぼりが当たりを色鮮やかに染める。  その近くに目的の博物館はある。  博物館は時間をかけてゆっくり回りたい。  今まで付き合った女性は、博物館と聞いてもっと楽しい所が良いと言われるか、付き合ってくれても途中で飽きて別の場所へと行きたがる。  そのくせ、彼女たちは自分の趣味に対してはちゃんと付き合えというのだ。  石井は静かに、そしてゆっくりと展示物を回る。そして話しかける時は小さな声でだ。  このペースが心地よくて良い。 「これこれ、いつみてもいいよなぁ」  江戸城や城下町などの模型が展示されている。民たちの暮らしぶりもよく表現されている。 「もしかしたらこの籠の中に歴史に名を馳せた人物が乗っているかもしれませんね」  真剣な表情で模型を眺める石井に、大浜は思わず吹き出してしまう。 「そんな事、考えたこともないよ」 「俺も普段は考えないんですけど、大浜さんが居るから」  と少し照れながら少し高い姿勢で模型を見る大浜を見上げた。  会話を楽しもうとしてくれているのだろう。苦手な事も自分にならしてくれる。それが嬉しくて石井の髪をわしゃわしゃと掻き撫でた。 「わ、俺は武将じゃないんですから」 「はは。ほら、次に行くぞ」 「はい」  立ちあがり、次の階へと向かう。  今日の目的である特別展のある階だ。特に今日は特別展がはじまって最初の休日。多くの人でにぎわっていた。 「戦国時代は人気があるなぁ」 「確かに。女性の方を良く見ますよね」  大学生だった頃、戦国武将が活躍するゲームが流行っていて、歴史に興味をもったという女性のサークル参加者が増えた。  切っ掛けはなんであれ、歴史に興味をもってくれるの嬉しい。今まで付き合ってきた彼女たちは興味をもってくれなかった。 「付き合ってきた女性の中に、ああいう子がいたら結婚してたかも」  思わず口に出てしまった言葉にハッとする。  隣で展示物を見てた石井の眉間にシワが寄っていた。 「それ、今、言う事ですかね」  無粋ですねと言い、展示物から背を向けて出口へと向かっていく。 「石井」  あわてて追いかけ、その腕を掴んで引き止めた。

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