14 / 19
躊躇 2
◇…◆…◇
繁忙期を乗り越えて約束通りに飲み会が開かれた。
忙しさから解放され、皆、楽しく酒を飲む。しかも隣には石井が座っていて、酒が余計にすすんだ。
気がつけば石井に肩に寄りかかっていた。
「大浜さん、飲み過ぎです」
「良いだろ、今日くらい」
もう一杯飲もうとしていた所に石井にグラスを奪われてしまった。
「社長、抜けます」
「あ――、そうだな」
楽しいのに、二人で勝手に決めないでほしい。
「こら、俺はまだ居るぞっ」
とグラスを奪おうとするが、
「駄目です」
有無も言わせず、といった感じ。肩に腕を回し外へと連れ出される。
タクシーをつかまえ、車内へと押し込まれた。
「うんてんしゅさーん、○○へお願いします」
告げた住所は石井のだ。
「え、なんで俺のマンションの住所、ちょっと、大浜さんっ」
住所を知っている事もだが、まさか自分の処へ行くとは思っていなかったのだろう。
「石井君の個人情報はー、俺の頭ン中にあります!」
トンと指で自分の頭を叩き、そして得意げに笑ってやる。
「はぁ、勘弁してください」
顔を手で多い隠し、ため息をつく。
暫くしてタクシーは石井の住むマンションの近くで止まり、ドアが開くと先に降りて歩き出す。
「ちょっと待ってください。マンションまで送りますから」
石井に腕を掴まれ、それを振り払う。
「武将に会う」
「えぇ、部屋に上がるつもりですか?」
「なんだよ、いっちゃ駄目なのかよ」
「駄目じゃないですけど、……ですよ」
なにか、ぼそぼそと言っているが無視して歩きだす。
「あ、だから待ってくださいって。ふらふらして危ないんですから」
腕を掴まれる。今度はそれを振り払わないでおいた。
部屋に入ると真っ先に武将に近寄るが、石井の方へと逃げていく。
「武将」
「当たり前です。酒臭いのは嫌だよな、武将」
石井が抱き上げて大浜に近づけると、嫌だとばかりに腕の中で暴れだした。
「今日は諦めてください」
囲いの中へ武将を入れ、冷蔵庫から持ってきた水のペットボトルを差し出される。
「これを飲んで。マンションまで送っていきますから」
「えぇ、泊まってくっ」
ソファーに横になる大浜に、
「貴方、こういう事をされても良いって事ですか?」
とその上に覆いかぶさった。
「石井?」
「貴方が悪いんです」
キスをされ手を服の中へと差し込んだ。
指が乳首をかすめ、それに反応して身体が震えた。
「まって」
キス以上の行為は考えていない。
「……駄目ですか」
「ごめん、流石にそれは無理というか」
「俺ら、付き合ってんじゃなかったのかよ」
「え、何それ」
いつの間に付き合った事になっているのか。
「そのつもりじゃなかったと、言いたいんですね」
眉間にしわを寄せてこちらを睨みつける。
ふと、ある言葉が頭の中をよぎる。勝手に解釈すると石井は言っていた。
それが付き合っているという結果になった訳か。
「わかりました」
その時の石井は、表情がなかった。
少しずつ、乏しかった表情に喜びを見る事が出来るようになっていたのに。
じりじりと胸が焼ける。このままではいけないと彼の肩を掴もうと手を伸ばすが、その手をすり抜けてしまう。
「ごめん」
ソファーから起きあがり部屋を出て行った。
ともだちにシェアしよう!