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躊躇 2

◇…◆…◇  繁忙期を乗り越えて約束通りに飲み会が開かれた。  忙しさから解放され、皆、楽しく酒を飲む。しかも隣には石井が座っていて、酒が余計にすすんだ。  気がつけば石井に肩に寄りかかっていた。 「大浜さん、飲み過ぎです」 「良いだろ、今日くらい」  もう一杯飲もうとしていた所に石井にグラスを奪われてしまった。 「社長、抜けます」 「あ――、そうだな」  楽しいのに、二人で勝手に決めないでほしい。 「こら、俺はまだ居るぞっ」  とグラスを奪おうとするが、 「駄目です」  有無も言わせず、といった感じ。肩に腕を回し外へと連れ出される。  タクシーをつかまえ、車内へと押し込まれた。 「うんてんしゅさーん、○○へお願いします」  告げた住所は石井のだ。 「え、なんで俺のマンションの住所、ちょっと、大浜さんっ」  住所を知っている事もだが、まさか自分の処へ行くとは思っていなかったのだろう。 「石井君の個人情報はー、俺の頭ン中にあります!」  トンと指で自分の頭を叩き、そして得意げに笑ってやる。 「はぁ、勘弁してください」  顔を手で多い隠し、ため息をつく。  暫くしてタクシーは石井の住むマンションの近くで止まり、ドアが開くと先に降りて歩き出す。 「ちょっと待ってください。マンションまで送りますから」  石井に腕を掴まれ、それを振り払う。 「武将に会う」 「えぇ、部屋に上がるつもりですか?」 「なんだよ、いっちゃ駄目なのかよ」 「駄目じゃないですけど、……ですよ」  なにか、ぼそぼそと言っているが無視して歩きだす。 「あ、だから待ってくださいって。ふらふらして危ないんですから」  腕を掴まれる。今度はそれを振り払わないでおいた。  部屋に入ると真っ先に武将に近寄るが、石井の方へと逃げていく。 「武将」 「当たり前です。酒臭いのは嫌だよな、武将」  石井が抱き上げて大浜に近づけると、嫌だとばかりに腕の中で暴れだした。 「今日は諦めてください」  囲いの中へ武将を入れ、冷蔵庫から持ってきた水のペットボトルを差し出される。 「これを飲んで。マンションまで送っていきますから」 「えぇ、泊まってくっ」  ソファーに横になる大浜に、 「貴方、こういう事をされても良いって事ですか?」  とその上に覆いかぶさった。 「石井?」 「貴方が悪いんです」  キスをされ手を服の中へと差し込んだ。  指が乳首をかすめ、それに反応して身体が震えた。 「まって」  キス以上の行為は考えていない。 「……駄目ですか」 「ごめん、流石にそれは無理というか」 「俺ら、付き合ってんじゃなかったのかよ」 「え、何それ」  いつの間に付き合った事になっているのか。 「そのつもりじゃなかったと、言いたいんですね」  眉間にしわを寄せてこちらを睨みつける。  ふと、ある言葉が頭の中をよぎる。勝手に解釈すると石井は言っていた。  それが付き合っているという結果になった訳か。 「わかりました」  その時の石井は、表情がなかった。  少しずつ、乏しかった表情に喜びを見る事が出来るようになっていたのに。  じりじりと胸が焼ける。このままではいけないと彼の肩を掴もうと手を伸ばすが、その手をすり抜けてしまう。 「ごめん」  ソファーから起きあがり部屋を出て行った。

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