15 / 19
落着
石井の想いを知っていてキスをしたのも、恋人と勘違いをさせてしまったのも大浜が悪い。しかも、身体のつながりを求められて怖くなって逃げだしてしまった。
そして、石井から表情が消えた。
「石井の奴、昔に戻っちまったな」
隣で珈琲を飲みながら加藤がいう。
「加藤さん」
「それにお前に懐いていたなと思ってたのに、この頃、話もしてねーよな?」
仕事の話以外に会話がはない。あからさま過ぎて気が付くだろう。
「……避けられているんです」
電話をしても出てくれない。メールの返事もない。話をしたくとも避けられて出来ないでいる。
「マジか。なにやったんだよ」
「アイツを受け入れておいて、拒んだんです」
何も言わずに頭にぽんと手を置いて撫で、
「よし、これを食べて元気をだせ」
と机からチョコレートの箱を出す。
ノワ・ショコラ。ノワとはクルミやナッツの事で、それにビターチョコレートが絡めてる。加藤がよく食べているものだ。
「これ、加藤さんの元気の源」
「今日は可愛い後輩に譲ってやる」
「ありがとうございます」
慰められる。加藤は本当に良い先輩だ。
※※※
定時で帰れたこともあり、無になりたくていつもの河川敷を走る。
石井と話したいけれど避けられる。
前に切っ掛けを作るために飼い犬を利用した事を怒ったが、今はその気持ちが解なと思ってしまい、駄目だなと頭を振るう。
結局、リフレッシュにならず、いつもよりも短い距離でUターンをする。
マンションの近くで犬の散歩中の背の高い影を見つけた。
そう、あれは、きっと……。
「石井!」
大声で名を呼べば、その影が立ち去ろうとする。
「逃げるなっ」
急いで追いかけて、体力のない向こうはあきらめて立ち止まった。
「俺から逃げようなんて無理なんだよ」
「はぁ、はぁ、そう、ですね……」
息が上がってしまったようで、前かがみになり息を整えている。
ご主人様とは違い、武将は元気に尻尾を振って足にまとわりつく。
「こんな時間にマンションの前までくるなんて、俺の事が好きな」
しゃがみ込んで武将を撫でながら石井を見上げる。腕につけたLEDライトが淡く表情を照らす。
「……はい」
ハッキリとその表情は見えないが、きっと照れている。
「なぁ、話をしよう」
と手を掴むと、振り払われなかった。
それを了承と受けとり、街灯の下へと移動した。
「お前は俺と恋人同士になりたいんだよな」
確認するように問う。
「勝手に解釈するといったら、そうしてくれというから、恋人同士になったんだと、そう解釈したまでです」
あの時は恥ずかしくて、そう言ってしまった。きちんと告げなかった自分が悪いし、石井の心を傷つけてしまったのだから。
ともだちにシェアしよう!