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落着

 石井の想いを知っていてキスをしたのも、恋人と勘違いをさせてしまったのも大浜が悪い。しかも、身体のつながりを求められて怖くなって逃げだしてしまった。  そして、石井から表情が消えた。 「石井の奴、昔に戻っちまったな」  隣で珈琲を飲みながら加藤がいう。 「加藤さん」 「それにお前に懐いていたなと思ってたのに、この頃、話もしてねーよな?」  仕事の話以外に会話がはない。あからさま過ぎて気が付くだろう。 「……避けられているんです」  電話をしても出てくれない。メールの返事もない。話をしたくとも避けられて出来ないでいる。 「マジか。なにやったんだよ」 「アイツを受け入れておいて、拒んだんです」  何も言わずに頭にぽんと手を置いて撫で、 「よし、これを食べて元気をだせ」  と机からチョコレートの箱を出す。  ノワ・ショコラ。ノワとはクルミやナッツの事で、それにビターチョコレートが絡めてる。加藤がよく食べているものだ。 「これ、加藤さんの元気の源」 「今日は可愛い後輩に譲ってやる」 「ありがとうございます」  慰められる。加藤は本当に良い先輩だ。 ※※※  定時で帰れたこともあり、無になりたくていつもの河川敷を走る。  石井と話したいけれど避けられる。  前に切っ掛けを作るために飼い犬を利用した事を怒ったが、今はその気持ちが解なと思ってしまい、駄目だなと頭を振るう。  結局、リフレッシュにならず、いつもよりも短い距離でUターンをする。  マンションの近くで犬の散歩中の背の高い影を見つけた。  そう、あれは、きっと……。 「石井!」  大声で名を呼べば、その影が立ち去ろうとする。 「逃げるなっ」  急いで追いかけて、体力のない向こうはあきらめて立ち止まった。 「俺から逃げようなんて無理なんだよ」 「はぁ、はぁ、そう、ですね……」  息が上がってしまったようで、前かがみになり息を整えている。  ご主人様とは違い、武将は元気に尻尾を振って足にまとわりつく。 「こんな時間にマンションの前までくるなんて、俺の事が好きな」  しゃがみ込んで武将を撫でながら石井を見上げる。腕につけたLEDライトが淡く表情を照らす。 「……はい」  ハッキリとその表情は見えないが、きっと照れている。 「なぁ、話をしよう」  と手を掴むと、振り払われなかった。  それを了承と受けとり、街灯の下へと移動した。 「お前は俺と恋人同士になりたいんだよな」  確認するように問う。 「勝手に解釈するといったら、そうしてくれというから、恋人同士になったんだと、そう解釈したまでです」  あの時は恥ずかしくて、そう言ってしまった。きちんと告げなかった自分が悪いし、石井の心を傷つけてしまったのだから。

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