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Ⅳ うそ①

俺の秘部には、おちんちんがない。 お金玉もない。 おちんちんも、お金玉もないけれど、女の子の割れ目がある訳でもない。 突起物がなくてツルツルだ。 毛はある。 胸は平べったいし、染色体がXY型だから、性別は男で間違いない。 昔はあったんだ。 小さい頃は。 おちんちんも、お金玉も。 ある日。パンツを脱いだら、なくなってた。 痛くなかったけど、一応母さんに相談したら「どこに落としたの?」って聞かれた。 「落としてないよ」って答えたら、母さんは「あら、そう」って微笑んだ。 警察に遺失物届を出そうにも、落とした記憶がないから届け出できない。 まぁ。なくても、いいんじゃないか。って話になって。 「心配するな」と父さんが、肩をポンっと叩いた。 なくても大して困らなかったから、ないまま今日に至っている。 「君の生殖器。……預かっているのは、私です」 ………なんって言った? 「知ってますよ。君に雄しべがない事は。私が奪ったも同然ですから」 ……天本さん? 「……なんで?」 知ってるって、どうして? 俺から奪ったって、どういう事? クスリ 口許に優雅な笑みを浮かべた彼は、俺の股間に突起物がないのを見ても全く驚かない。 燃える緋を灯した闇色の瞳は…… 俺を全部知っている。 「君を見守っていた。君を探していた。君に会いたかった。君に触れたかった。君を抱きしめたかった」 君を守るのは、私の役目だから…… 「天本さんっ!」 声がバスルームに反響する。 「俺達は初対面でっ。なに言って」 「君は……」 微かに揺らいだ瞳が、なにを意味していたのか…… 「覚えてないんですね」 真っ白に煙る湯気の中で、吐き出した小さな息が震えていた。

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