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Ⅶ 逢いたいから……愛しくて

「……君、涼君!」 あたたかい 「涼君!目を開けて。私が分かりますか!」 天本さんだ…… 天本さんが体に覆い被さっている。 なんで…… 天本さんの頭に、耳が生えてるの? 三角のモフモフの…… これじゃあ、まるで…… 「(タマ)みたい」 懐かしいな。 ちっちゃい頃、いつも膝の上に乗せてたんだ。 暖かくて。 撫でると掌からあったかな心音がトクトク伝わってきた。 耳に触れると、ピクン、ピクピクっ……て、耳を揺らすところも同じだな。 天本さん、猫みたい。 思い出した。 小さい頃飼っていた、猫…… 「珠……」 「やっと、その名前で呼んでくれましたね」 「天本さん?」 「珠ですよ」 ピクンっ 三角の耳が揺れた。 「雨に濡れて帰ってきたら、君にタオルでワシャワシャ拭いてもらって。 泥だらけで帰ってきたら、嫌がる私を君はお風呂に連れていって洗ってくれた……珠です」 つんっ 鼻と鼻が触れた。 「立場、逆転しましたね」 「そうだね」 俺、珠に抱っこされてる。 珠にタオルでワシャワシャ拭かれて、嫌がる俺を、珠にお風呂に連れてかれた。 「あの日と今、君と私は反対です」 あぁ、そうだ。 珠が交通事故に遭って、胸の中で必死に抱きしめたんだ。 「死なないで!!」 涙を落とした彼の叫び 過去が鮮烈な光となって甦る。 彼岸花が花開くかのように 「君が生命力を分け与えてくれたお蔭で、私は生きる事ができました。 けれど、君は代償に生殖器を失ってしまった」 彼岸花の咲く黒瞳が微笑んだ。 「今度は私が、君を助ける番です」 背後で尻尾がふわんっと揺れた。 「20年生きた私は猫又になりました」 二本の尻尾がふわふわ、なびいている。 「この力を、君に」 「そんな事したら珠が!」 珠も怪我してるんだ。 「動かないで。妖力で痛みを抑えているに過ぎません。早急な処置をしないと、君は死んでしまう」 「ダメだ!」 怪我してるお前が、俺に生命力を吹き込んだら、お前の命は…… 「涼君、大好きです」 唇を塞がれた。 伝えなくちゃいけない。 伝えなくちゃいけないのに。 俺も、お前が大好きなんだ。……って 俺も珠が大好き 死なないで!! ………………なのに 悲しいキスが口を塞ぐ。 胸の気持ちを塞ぐ。 伝えられないまま、死なないでって、心の中で繰り返す。 何度も繰り返す。 何度も叫ぶ。 珠……… 悲しい悲しいキスが、思考を溶かしていく……

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