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第1話
もう何時間、PC画面とにらめっこしているんだろう。
定時をとっくに越え、室内は気が付けば自分以外誰も居なくなっていた。ガラリとしたオフィスを見渡していると心細くなってきて、秋山祐輔は慌てて視線を元に戻した。
「それにしても暑いな……」
秋山はシャツの襟を緩め、手でパタパタと顔に風を送る。八月も半ばを過ぎようとしていたが、猛暑の波は収まることを知らず、連日厳しい暑さが続いていた。時刻は午後七時に迫るというのに、一向に熱が引く気配がない。
就労時間外の室内の空調温度の設定は、節電の為原則28度とされており、秋山の全身はジワジワとした熱に包まれていた。
「……よし。とっとと終わらせて帰ろう」
仕事の遅い自分を奮い立たせるべく、カタカタとキーボードを打ち込む手に、より一層力を入れる。暫くしてラストスパートに差し掛かり、漸く終わりが見えてきた。息を吸うことすら忘れ全神経を脳に集中させ、最後の文字を震える指で入力する。
「終わった……」
蚊の鳴くような声で呟いた秋山は、キーボードの上にバタン、と上体を倒した。
もう駄目だ。動けない。達成感よりも疲労が勝った。睡魔という抗えがたい誘惑に身を任せ、とろんと瞼を閉じた瞬間、突如、ドーン、と地鳴りの様な轟音が、室内に響き渡った。
「!?」
何事かと、飛び起きた秋山は、窓に映った光景に、視線が釘付けになった。例えるなら、それは正に夜に咲く大輪の花。華々しく鮮やかな光が、夏の夜空にくっきりと浮かび上がっていた。
「……花火、今日だったのか……」
残業に追われていて、すっかり忘れていた。
会社から程近い場所で開催されている花火大会だ。辺りに視界を遮る建物が無い為、今自分が居る三階のオフィスからでもはっきりとその姿を見ることが出来た。
色とりどりに形を変える美しい姿に魅力され、疲れも忘れてじっと見入っていた秋山だったが、突然コンコン、とドアを大きくノックする音が聞こえてきて、ドキッと心臓が跳ね上がる。
誰だ? と、訝しく振り返った秋山の目に、「よう」と、笑って手を振るよく見知った男の姿が映った。
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