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第2話

「秋山、もう終わったか?飯買ってきたから一緒に食おうぜ。おー、やっぱここからでも花火見えるな」 言いながらそそくさと室内に入り、窓に近づいて呑気に花火を眺めている男を、秋山は呆然と見つめる。 「……な、夏川、何で……」 「何でって、お前がいるからだろう?まあそれと、俺今日外回りで直帰だったんだけど、案外早く終わってさ。お前が残業してるって小耳に挟んでたから、様子見に来たんだよ」 確かに夏川の服装は、ワイシャツにスラックスと、自分と変わらなかった。自宅に帰らずわざわざ会社に戻って来たということか。 「しっかし、ここあんま涼しくねえな。律儀に空調温度守ってんのか。真面目だねえ」 「……真面目で悪かったな。暑いなら帰れよ」 「来たばっかりの人間に、帰れはないだろ。一人で淋しかったんじゃないのか?」 「……別に。淋しくなんてない……」 嘘だった。本当は、一人じゃ心細くて淋しくて仕方なかった。だが、本音を言えるわけもなく、秋山はそれきり口をつぐんだ。 夏川は黙った秋山を渋い顔で見つめ、やがて諦めたように息を吐き、「とりあえず飯食おうぜ」と、右手に持ったレジ袋を掲げた。 夏川が買ってきてくれた弁当や飲み物を机に広げ、二人分にしては多い量に、秋山は眉をひそめた。 「なんか多くないか?こんなに食べきらないだろ」 「疲れてると思ったから、多めに買っといたんだよ。いっぱい食えよー。大丈夫。お前が食い切れなかったら俺が食うから心配すんな」 にっと、子供のように無邪気に笑った夏川にドキッとし、秋山はそっと視線を逸らした。 秋山祐輔と夏川大樹は同期入社だが、部署が異なっていた為、入社して暫くは顔を会わせば挨拶を交わす程度の仲だった。しかし、ある飲み会の席で偶然二人きりで話す機会があり、そんな状態が一変した。共通してサッカー観戦が趣味だと判明し、大いに盛り上がったのだ。それから秋山と夏川の距離は、急速に縮んでいった。 仕事終わりに食事を共にするのが日課となり、休日は連れ立ってスタジアムに通った。 入社三年目の二十五歳で営業部のエースと期待され、明るく社交的な性格で人望も厚く、甘く端正な容姿と、非の打ち所がない夏川と、人付き合いが苦手で仕事が遅く、平凡な見た目で、 陰で「総務のお荷物くん」と言われている 自分とでは、接点なんて、名字に共に四季が入っているくらいだと、秋山は思っていた。

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