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第3話

夏川と一緒に過ごす度に、これは本当は夢なんじゃないかと疑った。 入社当時から密かに憧れていた相手と、好きなものを共有出来る喜びは何物にも代えがたく、秋山の中で夏川という男の存在は、どんどん大きくなっていった。 そしてある時、秋山は気が付いた。 自分が夏川に抱く感情は、友情以上だということに。 恋愛経験が乏しい秋山だったが、学生時代に一度だけ付き合った相手は女性だった。同性である夏川を好きになるなんておかしいと、秋山は何度も己の感情を否定した。 しかし、夏川と接する毎に好きだと思う気持ちが膨らんでいき、認めざるを得なかった。 自分は夏川に恋をしている―――。 そう自覚してから、秋山は意識的に夏川と距離を取るようになった。 もし夏川に、この気持ちを知られて嫌われてしまったら、自分はきっと立ち直れない。 だったらいっそ、この関係を元に戻してしまえばいい。そう秋山は思った―――。 「秋山、食ってるか?弁当、全然減ってないぞ」 気付いたら夏川に手元を覗きこまれていて、秋山は慌てて「食べてるよ」と、声を上げる。 「そうか?駄目だぞー。ちゃんと食わないと」 「あ、ああ……」 自分はもう弁当を食べ終えたのか、じっと見つめてくる夏川の視線に耐えられず、秋山はヤケクソのように弁当を口に掻き込んだ。 「おーいい食べっぷり。俺も二個目食おう」 旺盛な食欲の夏川に感心しながら卵焼きを咀嚼していた秋山は、ハッと、今自分が置かれている状況の異常さに、後ればせながら気付く。 先程は極度の疲労の為か、疑問に思わず普通に会話をしてしまったが、こうやって面と向かって夏川と話をするのは、秋山が自分勝手な理由で夏川を避け、交友が絶たれた以降初めてだった。 誘いを断り続ける秋山を当初は問い詰めてきた夏川だったが、煮え切らない秋山に焦れたのか、いつしかぱったりと、何も言って来なくなった。それまで一緒に過ごした日々が嘘だったかのように、秋山と夏川は秋山の望んだ通りの、いち同僚という関係に戻った。 これで良かったんだ。もう傷つく心配はない。 そう自分に言い聞かせたが、秋山の心は晴れるどころかどんどん沈んでいった。社内で女性社員と談笑する夏川を見かけて、何であそこに居るのは自分じゃないんだろうと、浅ましく考えている自分に気付き、ぞっとした。

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