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【SS】微睡

この歳になって恥ずかしい話だけど、暗闇はいまだに苦手だ。 なにもないところで、ひとりぼっちで、まっくらで。 何かが這い寄ってきそうな恐怖と、 その『何か』が何であってもいいからそばにいてほしいという気持ち 二つの矛盾した気持ちに戸惑いながら 膝を抱えていたあの頃を思い出すと今でも身震いしてしまう。 暗闇はいまだに苦手だ。 残念ながら、あなたがいてもそれは変わらない。 だから、しがみつく。 今そばにいる『何か』があなたであることを確かめるために。 『何か』が決して恐ろしいものではなく 惜しみなく愛を注いでくれる、 あたたかなものであるという喜びをかみしめるために。 暗闇はいまだに苦手だ。 けれど昔のように恐怖からではなく 明るいほうがあなたのすべてが見えるから。 あなたのすべてが見たいから、 光に照らされたあなたを見たいから。 やっと空が白み始めた。 薄明りに浮かびだしたあなたの寝顔を見つめながら ぎゅっと握られた手のぬくもりを感じながら ようやく眠りにつけそうだ。

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