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誕生日は大忙し 5
遊園地を後にして、また車で移動。今度は高速に乗って二時間ほどの道のり。今だってリョウご所望の『夜は海沿いの高速をドライブ』の時間なのに、リョウはというと助手席でこくこくと首を揺らしてははっと目を開けて、を繰り返している。
「寝てていいよ」
「いやいやあかんやろ」
デート中、しかもずっとアヤだけに運転させておいて自分だけが眠るわけにはいかない。眠気を吹き飛ばすようにぷるぷると首を振り、目をしばたたかせながら両頬を両手で挟むように何度も打った。
着いたのは、テレビでよく見るあの港、あの橋。
「うわあ!! やばい! やばいこれ」
眠気などどこへやら、リョウは瞳を目いっぱい見開いて、見るところだらけの絶景をどこから見ればいいのかときょろきょろしている。
「こっちだよ、おいで」
連れて行かれたのは乗船場。いよいよ今夜のラストミッション、ディナークルーズの時間だ。
船の中ではレストランの窓際の席に案内され、フレンチフルコースがお目見え。リョウは料理を目で楽しみ舌で味わうのと景色を見るので忙しい。テレビでしか見たことのない、いつか行ってみたい場所が短時間でいくつも登場する。今度はあそこにも、ここにも、一緒に行きたいな。思考まで忙しいリョウだった。
「料理は美味しいし、景色はきれいやし、アヤは優しいし、どうしよ、幸せすぎて怖い」
早くもメインディッシュとなった仔羊のロティを小さく切って口にしながら、リョウが夢見ここちで呟くと、アヤは何も言わなかったがとても幸せそうに目を細めた。リョウはこんなアヤ見たのは初めてだ、と思う。キャンドルの光でほんわりとやわらかく輝くアヤの表情は同じく柔らかくて、とても崇高で美しいもののように見えてしまってリョウはドキッとした。
「アヤ……きれいやな」
「酔ってるの?」
食事のラストにはバースデーケーキが運ばれてきた。持ち帰り仕様にしておくようアヤは頼んでいたが、リョウたっての希望で一緒に食べることに。そしてケーキの横に何か小さなものが。
「えっ? これ」
ハートの錠前に、鍵が二つ。いつぞやを思い出させるアイテムだ。
「食事についてるんだってさ」
決して自分が用意したわけではない、と言いたいのだろか、アヤが食い気味に説明した。
「そうなんや……ふふ、カワイイなあ」
目の高さにかざして、キラキラと輝く黄金のハートを眺めるリョウの方がかわいいだろ、とアヤは思った。
デッキに出るとなるほど、施錠できるコーナーがあり、たくさんの同じハートたちがかかっていた。しかしリョウは手に持ったまま、そのコーナーへ近づく気配はない。
「前のは現地につけて帰ってきたから、これは持って帰ろうか」
アヤが声を掛けると、嬉しく、そして安心したような顔をした。
「うん! これ、俺が持っててもいい?」
「もちろん」
「早速鞄につーけよっと」
言うが早いかもうボディバッグのファスナーに取り付け始めた。
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