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誕生日は大忙し 4
一時間ほど走っただろうか、次の目的地である遊園地に到着した。
絶叫マシンが多くて有名な、国内でも有数の人気施設だ。当然人も多く、人気のアトラクションは長蛇の列。滞在時間が短いから、きっと二つ三つ乗れたら良い方だろう。
高さと速さを誇るコースター、世界一の加速力を誇るアトラクション、落下角度121度の世界最恐コースターといわれてももはやどれだけすごいかわからない。リョウが乗りたいと言ったこの三つに絞ることにした。しかし四時間待ちのものもあり、どう考えても無理で、この中の一つだけ乗った後は他の空いているものに適当に乗る、と妥協した。
リョウが挙げた中で一番待ち時間が短かった一番人気のコースターに、二時間並んで乗った。待ち時間の間は二人とも忘れていた眠気が襲ってきて、何度もあくびをかみ殺した。それでも待っている間もふたりでいれば楽しかったし、どうでもいい話をしているうちにすぐ順番が回ってきた。
その後はボートに乗ったりゲームコーナーで勝負したりと、混雑していないエリアで過ごした。別に遊園地でなくても楽しめるようなものばかりだったが、二人にはこんな普通っぽいデートも特別だった。よそよそしかったリョウもいつの間にか普段通り。屈託なく笑い、勝てば飛び上がって喜び負ければ地団駄を踏んで悔しがる。
「ここは入らなくていいの?」
歩いているとき、ふとアヤが指さしたのは、お化け屋敷、というにはあまりにも本格的すぎる、近寄っただけで取り憑かれそうな、本物の廃墟のような建物。
「う、うん」
リョウの笑顔が一瞬だけ引きつったように見えた。
「ふーん。もしかして、こういうの」
「いえ! 別に苦手ではない! 断じてない!」
「じゃ入ろうよ」
「いえ! 今日は結構です!」
すたすたと足早に進み出したリョウを笑いながらアヤが追いかけた。
すっかり日は傾いて、景色をオレンジ色に染め始めている。そろそろ経たねば次の予定がある。
「次で最後にしようか。どれに乗る」
アヤが尋ねると、迷いなくリョウの指がさしたのは、観覧車。
普通のゴンドラは四人乗り、天井から床まですべて透明ガラスのゴンドラは二人乗り。リョウは密着できる二人乗りに乗りたがったが、アヤは四人乗りを推す。
「広い方がゆったり座れるし、それに」
アヤが躊躇している理由は二つあった。一つはこんな透け透けの箱では全部外から丸見えじゃないかという邪な心、そしてもうひとつは。
「もしかして、怖い?」
リョウがニヤニヤと言えば、アヤは背を向ける。
「そんなわけないだろ。もっと高いのだって乗っただろ」
高いといっても絶叫マシンはあっという間、高さなど感じている間がない。反して観覧車は十一分もの間、じっくりと高さを味わわねばならない。
「いいよいいよ、そんなに怖いんなら普通のん乗ろ」
「違うって」
結局普通のゴンドラに乗った二人。今日半日を振り返るように、パークを一望できる眼下の景色を見下ろす。
「昼から来た割にいっぱい遊べたなあ。楽しかったあ」
窓に顔をくっつけて見下ろしながらにこにこしているリョウと、なるべく箱の真ん中に位置しているアヤ。
「あ! あっちも行ったよな」
リョウが端から端へ移動すると、ゴンドラがゆらりと揺れる。
「じっとしてろよ」
「なんで?」
「危ないだろ」
「何が?」
愉快そうに笑いながらリョウが言うものだから、アヤはリョウを捕まえて無理矢理隣へ座らせ、肩を抱き寄せた。
「ちょっと落ち着け」
肩と肩、腿と腿が触れあう。それまではしゃいでいた空気が一気に別のものに変わり、何の音も聞こえなくなった。互いの高まった鼓動まで聞こえてきそうだ。空はオレンジと紫の二色のグラデーションを描き、ひとつふたつ煌めきが現れ始めた。
「遊園地来たん初めてやな」
「うん」
「次は朝から晩まで一日中遊びたいな」
「じゃあ今日そうすれば良かったのに」
「今日は誕生日やから!」
「はいはい」
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