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彼の弱いところ 1

 すやすやと、安らかな寝息を立てているのは、隣で眠る最愛の人。  遠く離れた地に住む二人の、ひとときの逢瀬の合間。  onの時の、1ミリの狂いも無く無機質なほどにミスを犯さない仕事ぶりからは想像もつかないoffの適当さ。これも恋人である自分しか見ることのできない、愛すべき魅力。  毛穴が数えられるぐらいに接近して、穴が開くほど見つめる。眼鏡を外しているレアな顔から、規則的に上下するからだへと目を移せば、襟ぐりが伸びきったくたくたのスエットは胸元が広く開いていて、見えてはまずいものまで視界に入ってきた。 「いつの間にこんな成長したんやろ」  出会ったころはもっと慎ましやかだったはず。いつの間にやらこんなにも自己主張が激しくなってしまって。  ――ま、俺がここまで育てたんやけどな。  下卑た笑いをこらえきれず、ククッと声が漏れた。  目に入ってしまえば触れたくなるのは必然、スエットの上から手のひらですっ、と撫でてみる。寝息に変化はない。触れるのを手のひらから次第に指先へとシフトし、照準を絞って円を描けば、ピクリと眉だけが動いた。爪でひっかくと全身が跳ねて、ここまで来たらもう止められなくなった。 「えっ……何やって……」  ついに起きてしまったが構うものか。スエットをべろりとたくし上げて吸い付くと、悩ましい息が漏れた。吸いながら、舐め上げながら、零れそうになる笑いを堪える。  普段は愛想なしで、愛の言葉を囁くどころか普通の会話らしい会話もろくにしてくれず、こちらが愛を伝えたところで可愛げの無い反応しか返ってこない――反応が返ってくるだけマシか――そんな男が、自分の手に、指に、舌によって、こんなにもいやらしくてはしたない嬌声を上げているだなんて。ニヤついてしまって当然というものだ。 「可愛い声。もっと聴かせて」  そんなことを言ってやろうものなら、今にも殴りかかってきそうな目になり、たちまち意地になって声を殺す。それもまた可愛くて仕方がない。 「他のヤツに絶対そんな声聴かせたらアカンで」  舌をいったん離して見上げると、恨めしそうに見下ろす顔と目が合う。 「そんな顔も」 「うるさ、あぁっ」 「大好き、俺のアヤ。アヤの全部、俺だけのやで」

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