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第1話

坂上幸太郎と、一つ年下の久住ナオの同棲は、ナオの大学卒業を機にスタートしていた。 これまでそれぞれが住んでいた場所に比べると、都心へ出るのに少々時間がかかる立地ではあるが、2人で内見して吟味に吟味を重ねて借りようと決めた部屋だ。 間取りは2DKで、ダイニングルームには白いダイニングテーブルと椅子が置かれている。 生活空間である2部屋は、幸太郎とナオにあてがわれているのではなく、片方をリビングとして使い、もう片方にはキングサイズのベッドを置いた。 「ただいまー」 午後7時、諸住物産という商社の営業マンである幸太郎が帰宅する。 「おかえり、幸太郎」 ナオは少し前に帰宅して夕食を作り終えたところで、幸太郎の声がするなり玄関で出迎えた。 「あー……今日も疲れた。お前もお疲れ、ナオ」 「うん。それで、食事はできてるし、お風呂の準備もできてるけど、どっちを先にする?」 幸太郎はしばしナオを頭からつま先まで舐めるように見つめると、「お前がいい」と言って華奢な身体を抱き締めてきた。 「ちょ、え……俺?」 「ナオが足りねー……補充してーんだよ」 昔のドラマで「お帰りなさい。お風呂にする?ご飯にする?それとも私?」なんてやり取りをしている夫婦を幸太郎と観たことがあるけれど、まさか現実にそんなことを口にするとは思わなかった。 「えーと……と、とりあえず家に上がろう?靴脱いでさ」 体重を預けてくる幸太郎をいなしながら、ナオは彼の腕の中から逃げる算段を考えるが、こうもがっつりホールドされていては、残念ながら逃げられそうにない。 そもそも幸太郎とナオの間には、身長差が20センチもあるのだから、力比べをしたら幸太郎に分があるのは明らかだ。 幸太郎は靴を脱ぎ捨てると、ネクタイを緩め、今一度ナオを抱き締めた。 そして少し屈み、キスを落としてくる。 チュッと音を立てて唇に触れたかと思えば、ナオの口の中に舌を挿し入れてきて、口腔内をくまなく舐め回す。 「んッ、ん……」 ナオは息苦しさを感じつつも、必死にキスに応じた。 最近の幸太郎のディープキスは、鼻呼吸に切り替えても苦しいと感じることがある。 それほど激しく求めてもらえることが嬉しく、どこかくすぐったい。 「ナオ……愛してる……」 幸太郎の方は、ナオの胸中とは逆でやたらと冷めていた。 ナオのことは抱きたい。 許されるならずっと抱き合っていたい。 だがナオは「愛してる」と幸太郎が言うと、途端に表情を凍て付かせるのだった。

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