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第35話
ああ、気が遠のいていく──。
ナオから欲しい言葉をようやくもらえた幸太郎は、全力で突き上げながらも、なぜだか眠気に襲われていた。
その気になれば、この状態でも眠ってしまえそうだ。
「幸太郎……?」
ナオに名を呼ばれると、幸太郎は完全に意識を手放して思い切りナオの上に倒れてしまった。
「ちょっと、幸太郎!?」
辛うじて彼の下から這い出たナオは、何があったのかと幸太郎を横向きに寝かせる。
「ナオ……」
幸太郎は辛うじて意識を保っているようで、力なくナオの名を呼んだ。
「どうしたの?どっか痛い?」
「そうじゃねーよ……お前、狡ぃよ……」
「え……?」
「俺、諦めてたんだ……お前が『好き』とか『愛してる』とか言わねーから、言わねーなら仕方ないって……もう諦めてたんだ」
ナオは驚きに目を見張り、幸太郎が辛うじて差し出してきた手を両手で握った。
そんな風に諦めていたなんて、知らなかった。
言えないなら言わせようとする強引さが幸太郎にはあると思っていたのに、自分は一体彼の何を見てたのだろう。
「俺の中で、幸太郎をゲイにしたこと、割り切れたから……」
「バーカ、ナオ限定のゲイだっつったろ?」
「だけど……幸太郎の人生を狂わせてるのかもしれないって思ったら……『好き』も『愛してる』も、言っちゃいけないんだって……」
どうやらこの件に関しては、完全にナオの独り相撲だったようだ。
幸太郎はゲイになったことを憂うのではなく、ナオに告白されないことを憂いていたというのに、一緒に暮らしていながらそのことに気付いてやれなかった。
「ナオ……俺も同じ気持ちだ……でも、なんだろうな……今日は安心したせいかもうデキそうにねーや」
「あ、明日も、明後日もあるから!それに、休み取ったし、旅行が近いんだよ?分かってる?」
「ああ……」
それきり瞼を完全に下ろした幸太郎に、ナオはそっとキスをする。
恋は難しい。
自分の気持ちはちゃんと相手に伝え続けないと、2人を繋ぐ糸がぷっつりと切れてしまう。
「旅行かぁ……楽しみだなぁ……」
ナオは幸太郎の隣に潜り込みながら、彼の頬をさすったり、少し硬い髪を指で梳いてやったりして、自分も眠くなるのを待つ。
言えてよかった。
言わずにいたら、幸太郎を不安にさせたままだったことは間違いない。
「ねぇ、幸太郎……多分俺の方が、好きだし愛してる」
ナオは幸太郎の耳元にそう囁くと、眠気に襲われながらも布団の下で幸太郎の手を握った。
幸せって、自分で引き寄せるものだったんだね──。
(終わり)
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