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第23話《最終話》

「人の息子たぶらかすなよ、優」 後ろから聞き慣れた声がしてもしや……と慌てて振り向いた。そこには海風に髪を靡かせた孝司と直が立っていた。 「なんで…いんの…」 慌てて立ち上がった優は深く頭を下げ「お久しぶりです」と孝司に微笑む。 「ごめんね、圭一。待ってらんなくって来ちゃった」 直は申し訳ないとシュンとして泣きそうな顔を見せる。 こんなこと……初めてじゃない。中学の修学旅行も高校も。専門学校の卒業旅行でさえこっそり着いて来ていた。来ないなんて誰が思ったんだと圭一は頭を掻き毟りたくなった。さっきのクラムチャウダーだって直が作る味そのものだった。 それに孝司の勧めた旅行だ。行き先だって孝司は訪れたことがあると言った。そんな場所なら来ることは安易なはずではないか。 「いいよ。どうせ来るだろうと思ってたし」 今の今まで気付かなかったが仕組まれたこの度は孝司の差し金なら頷ける。きっと自分の浅はかな計画は見破られていたんだと確信に変わった。泣き出しそうな表情を浮かべた直は圭一に駆け寄りいきなり抱きしめてきた。そして大きく鼻を啜る。 「どうしたの?なんかあった?」 直の心情は安易に想像出来る。孝司の仕組んだこの旅を直が快く納得するわけがない。圭一の顔を見て感極まったのだろう。 「圭一…大丈夫?いつかは通る道だけどこんな……僕は反対したんだ……なのに孝司が……」 泣きながら抱きしめてくる直を抱きしめ圭一は孝司をそっと見た。 そこには優とは違う苦笑を浮かべ頭を掻く孝司がいて、隣の優と顔を見合わせまた苦笑いをする。それは直が泣いている理由を優も知っていると言うことだと悟る。 「仕方ないだろ、何処の馬の骨かわからない奴と初体験しようと企んでたんだ。それなら最高にいい思い出になる初体験をさせてやりたいと思うのが親だろうが」 その科白に圭一は絶句した。 そんな親いるわけがない。普通は親に隠れてこっそり初体験は済ますものだ。平凡な圭一は普通でいんだと胸のうちで叫んだ。 でも、それが孝司で圭一の親。そして腕の中で心配し倒し泣いている直も家族なんだと妙に納得し、それでもやり過ぎだと思いながらもこんな親を持った自分の運命なんだと思うしかないんだと。 「直、大丈夫だよ。凄くいい初経験になった。孝司に礼を言わないといけないねぇ」 泣きじゃくる直を抱きしめ孝司を軽く睨むと、呑気な声が飛んで来た。 「ほら見てみろ。夕日が地平線に沈むぞ!」 話を逸らした孝司の差した指先の向こうには絶景を映す赤い夕日が夕雲を引き連れて地平線の彼方に姿を消していき、圭一のアバンチュールを最幸のエンディングへと幕を引いた。

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