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第6話

  ラブホテルから出て、裏通りから表通りの大通りに出る。空車のタクシーを捕まえ、乗り込んだときには俺は泣いていた。後悔という言葉がこのときの俺には似合っているだろう。 嵯峨のあの瞳をみたときに気がつくべきだった。嫉妬で煮え繰り返すあの瞳をみたときに。 ソレと同時に、コスモスの匂いをするシャンプーを芹沢に渡した記憶が蘇っていた。花言葉が乙女の真心というだけあって、恥ずかしい言葉だがそのときの俺には芹沢がそうみえていたのだ。そして。 『ハナが女の子だったらよかったのに』 そう呟いた言葉に、俺の想いがあったのだろう。同性愛という言葉を知らなかった無垢な心には、そうなって欲しいという強い願望があったから。 長く伸ばした髪も、女の子らしい服装や仕草がそうであったかのように、ちやほやされる芹沢を疎んだ心が本当に餓鬼の地団駄のようで、羞恥する。いじめた理由もくだらない。目障りというよりもひとり占めしたという、本当にくだらないモノ。 悔しさと情けなさで涙が溢れ出る。嵯峨がいうように、どうして、俺なんだろうと思った。もっと早くソレに気がついて、芹沢に優しくしてあげればよかったと思ってももう遅い。俺の初恋は、己の自尊心で崩壊したのだから。 ───────── ────────────────── 翌日、重い目蓋と身体を引き摺って、大学に向かった。二年のこの時期に取っておかないといけない単位があるからだ。 嵯峨はもう二度と芹沢を俺に近づけないだろう。俺から会いに行くとしても。 ジリジリと鳴く、油蝉が鬱陶しい。木陰の下だろうが暑い炎天下。蜃気楼がみえてもおかしくはないだろう。 「宗ちゃん、同じ大学だったんだね♪」 そういう芹沢の姿があっても。 END 芹沢の後ろに立っている嵯峨が俺に向かって手を差し出す。どうみても握手ではないその手に薄い財布を出した。 「あのさ、あの万円札って餞別だったんじゃなかったのか?」 「ああ、そうさ。夜道は気をつけろ」 そう笑う嵯峨だが、その目がまったく笑っていなかったことは俺しか知らない。  

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