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第5話

  ザワリと寒気がする。俺は逃げるように後退りをするが、サイドテーブルに腰を打ちつけて停止してしまった。ゆっくりと近づいてくる芹沢は、なぜか嬉しそうだ。 「宗ちゃん、騎馬体位が好きなんだ。オレといっしょだね」 そう訊いてくる芹沢の目はもう俺のことしかみていなかった。つき合っている嵯峨のことなんか忘れているみたいで、俺は嫌な予感しかしない。 そういう嫌な予感は簡単に当たるモノで、俺は首を振って懇願した。ソレなのに、芹沢は「ふっふ、宗ちゃん、照れちゃって可愛い♪」とまったく聞く耳を持たず俺の上に跨がると、いつの間に脱いでいたのか、下半身裸の丸い小さなお尻を俺の息子の上に乗せるのだ。下処理もなくそういうことをするとは思っていない俺は、慌ててふためく。いくら慣れているといっても、解かしていないとダメだろうとまた霰もない方向のことを心配して叫んだら、芹沢はクスクスと笑った。 「大丈夫、宗ちゃんが物凄く気持ちよくイッてる最中にちゃんと解かしておいたから」 自分で解かしたというだけあって、芹沢の割れ目はしっとりと滑っていた。キングサイズのベッドの淵には、使ったというローションの空瓶が転がっている。アレだけの量が芹沢の中で掻き回されるんだと思うと、男の俺としては複雑な思いだった。ソコまでする必要があるのかという。好きあって繋がりたいと思うならまだしも、俺と芹沢はいじめっこといじめられっこという関係で、その芹沢には嵯峨という救世主で、権力を持った恋人がいるのだ。 「………お、ちつこう。な、せり………ハナ………」 「ん?落ちついているよ。ああ、宗ちゃんはオレの中で気持ちよくイケばイイだけだから安心して」 芹沢は俺が初めてだと思ったのだろう。知識だけだあって、頭でっかちの未経験。だが、反論しようとしても亀頭を女のアソコよりも狭い孔にくっぴとくわえ込まれたら、もうぐの音もでない。アナル未経験者には、気持ちイイと持っていかれるという心理状況しか働いていなかった。ヤバい、ヤバい、と中に収まるだけで弾けてしまいそうだった。踏ん張って持ち堪えようとするが、ずこずこと動き出されたらモノの数秒でイッてしまう。 しかも、萎えることなく三度目の勃起をする俺の息子はしっかりと芹沢の中を堪能して、霰もない声を芹沢の口から発生させる。もうコレは同意で、行き当たりばったりのアレでもない。泣きそうになる俺だったが、「ん~、あっ、あっ、そこ~、気持ちィィ」と喘がれたら、自制心なんかあっという間に呑み込まれしまう。騎馬位だった体位が後部位になったり、正体位になっていたなんてもいえないし、喘ぐ芹沢の口がうるさいという理由で唇で唇を塞いだなんていえない。中で三、四回くらい出したと思うが、芹沢が中で欲しいとせがんで頼むんだから仕方がない。ハッと理性が戻って、嵯峨のことを思い出したときには芹沢のことを抱き潰していた。 真っ青な顔でとにかく、ざっーとシャワーで頭を冷やしながら、精液を落とす。備えつけのシャンプーで頭を洗って、序でに身体も洗う。棚からタオルを取り出し、急いで濡れた身体を拭いてかき集めた服を着る。お金は芹沢が出すとはいっていたけど、こんな状況下でソレは許されないだろうとなけなしの電車代をおいて、ラブホテルの部屋をでる。 運がよければ嵯峨にみつからず、この場所から立ち去れるだろうと甘い期待がドアを開いたハズなのに瞬きする暇もなく、ソレは打ち砕かれた。普通に考えても、追いかけてきている人間がココに入っていく俺と芹沢をみ失うハズがない。例え、み失ったとしても芹沢の容姿をいえば直ぐにみつかる。鍵が掛かったドアをじっとみつめていた嵯峨が、ゆっくりと俺に近づいてくる。薄いドアだ、隣同士の壁が分厚くともこの廊下では聞こえているハズ。もう逃げることも隠れることもできない。 軽くかけているハズの廊下のエアコンが物凄く寒く感じた。シャワーを浴びて、まだびしょ濡れの髪が頬に張りつく。イケメンの顔が思いっきり歪んだと思ったら、俺は壁に挟まれてずるりと全身が床に落っこちていた。バッキと物凄い音がしたから殴られたんだと思った。だが、顔や頬、鳩尾に、下腹部に酷い痛みも鈍い重みもない。そっとみあげた先にある顔から涙が溢れ落ちてきて、その先の壁が思いっきり凹んでいることに唖然とする。 「なんで、お前なんだよ!」 絞り出される声からも完全に嵯峨が泣いていることに気がつく。だが、なんでそんな罵声を浴びさせられるのかが解らなかった。芹沢に手を出しやがってと罰せられるならまだしも、「なんで、お前」というのか俺は理解できなかったのだ。無反応な俺に痺れを切らせらのか、嵯峨はポケットをまさぐると分厚い財布を取り出した。 「コレは餞別だ!返さなくてもイイ!」 叩きつけるように紙幣が投げ捨てられ、ソレが万円札と解ったときにはもう嵯峨の姿はなかった。パターンと音がしたから、俺と芹沢が性情を行った部屋の中に入ったんだろう。 俺は投げつけられた紙幣を掴み、床に投げ棄てようとしたが、帰りのことを考えると冷静になり、コレがいじめた代償なのかと小さく呟いた。  

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