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もう夜は明けたのに、まだ君が足りない。
波の音がする。
反芻するように、寄せては返す波が何度も何度も耳の中で鳴り響く。
心地の良い音なのに、頭の中をかき回される様で気持ちが悪かった。
耳を塞ごうとしても、手足は鉛のように動かない。
動けない身体で、ただただひたすら、頭を掻きまわされる痛みに耐えるしかなかったのだ。
「大丈夫ですか。今日は少しだけ数値が穏やかじゃないみたいですが、どこか痛いんですかね」
そっと撫でられて、痛みが引いていく。
彼の声は俺の精神安定剤だった。
「叔父さん。声をかけてあげてください。聞こえているんですよ。元気が出るような言葉を……貴方が一番彼にかけてあげるべきなんだ」
泣き出しそうな震えた声。
ああ、そんな声を出さないでほしい。そう願うのに、カラカラの僕の喉は声を発せなかった。
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