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第107話
「遼。……遼」
「俺は怒っていないしこの五年間を後悔してねえ。謝るのは俺の方だから、お前は何も言わなくていい」
肩をポンポン叩くと、風海さんは安心したのか気絶するように気を失ってしまった。
「悪いが、リハビリに行くはずだったんなら、キャンセルを伝えてもらえるか」
「……お前、本当に風海さんが好きなのかよ」
持っていくな。
「どうせ、傷つけるよ。お前はこれからも優しい風海さんに付け込んで、傷つけるよ」
「……信用されねえのは当たり前だ」
「置いて行けよ! やっと、やっと前を向いて歩きだしたんだ。やっと、やっと」
やっと絶望から解放されようとしていた。毎日、笑顔が増えてきた。
お前のせいで、命を経とうとした弱い人だ。
簡単に消えてしまいそうな、か弱い人だ。
置いて行けよ。今まで散々泣かせてきたくせに。
なんで、やっと歩き出した今、言うんだよ。
「……離島で、イルカのトレーナーを募集していた。こいつを浚っていく」
「ふざけんなよ。お前じゃ幸せにできない。絶対にできない」
今までの行動からでもわかるが、今回は違う。
風海さんは、こいつを殺そうとした罪悪感から一生、贖罪のようにこいつに尽くすだろ。
辛くても傷ついても、二度と我儘を言わず飲み込むだろ。
「じゃあお前が奪いに来い」
「はあ?」
「お前の方が幸せにできるというなら、奪えばいい。俺は邪魔はしねえ。この一か月、お前と風海が心を通わせているのを見るたびに、腸が煮えくり返るほど嫉妬してたからな」
やっぱり自分の感情じゃねえか。
「俺は、一生をこいつに捧げる。だから、さらっていく」
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