138 / 138
第138話
空気はまだ寒い。
クリスマス前には今年最大の寒波が来るとニュースで言っていた。
息を吐けば白く溶けていく。
季節が巡るのは当たり前で、寒い日に息が白くなるのも当然で。
でも僕が男性にだけ恋愛感情を抱くのは、自然の摂理とは思えなくて違和感だらけで、自分で自分を否定して、きっと周りから見た僕はうじうじした頼りない奴だ。
そんな僕を好きになって抱きしめてくれた最初の、大切な人が遼だった。
遼に婚約者がいて結婚間近で、……死んで消えてしまいたかった僕に寄り添って支えてくれたのは征孜くん。
僕は、完璧ではないせいで誰かに頼ってしまって、誰かを不安にさせてしまって、そして弱い。
めちゃくちゃに叫びたいぐらい、弱いんだ。
「ぼーっとしてるとこ悪いが、着いたぞ」
「え、あ……ありがとうございます」
いつの間にかトラックが停まっていた。山を下りず海岸を走らせたらしい。
「危ない」
急いで降りようとして、シートベルトが腕に挟まったまま降りて、倒れてしまいそうだった僕を支えてくれたのは遼だ。
いつもの香水の匂いはせず、潮の香りだ。
「ごめん」
「いや。連れてきたのは俺だ。少しでも体調が悪くなったら、言えよ」
くしゃくしゃと髪を撫でられ、渡辺さんから口笛を吹かれた。
「俺はまた本部に戻っとくが、モニターで見えないとこで盛れよ」
「盛らねえよ」
遼が怒って僕の手を自然と掴んで、引っ張っていく。
手を繋ぐ。
高校生時代は、よく繋いでいた気がする。
周りにからかわれると「できてるんだよ、俺ら」と遼が言うと誰も信じず笑われていたっけな。
ともだちにシェアしよう!