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第58話

「ば、それは和葉さんには関係ないです。仕事で使うんですから」 慌ててあっくんが紙袋を奪うと、そのまま持って玄関から飛び出してしまった。 はたして警察の会議に、料理本が必要だろうか。仕事に使う? 仕事に……。臓器売買の仕事に使うのか? 「和葉さん、今日は体を休めてくださいね。徹夜明けですし」 それに内臓も休めてくださいね、と言われたような気がした。 あっくんが俺に優しいのは、あれなのか。 仕事で農家の人が、大事に大事に育てた家畜を出荷する感じ。 出荷させるまで毎日愛情をもって接するし話しかけるし、おいしい肥料をあげてぶくぶく太らせるし。 「……うん。いってらっしゃい。今日は眠いから朝まで起きないと思う」 三日も不健康な生活をしてたから、出荷できないのか。 ということは、最後消毒したり綺麗にして出荷するとしたら、結婚式の撮影会? 着飾った写真が販売リストに載せられるのか。 「どうしたんですか? 顔が真っ青ですよ。俺、今日やっぱり家にいましょうか」 「昭親さま」 辰崎さんの叱り方、渋くて素敵なのになぜか俺は気分が晴れない。 「大丈夫だよ。ちょっと眠たくなっただけ。ちゃんと栄養撮って休んで、内臓回復させとく」 ぎこちなく微笑んだら、あっくんが悲しそうに眉を下げた。 けれど俺は、安心させてあげる表情ができない。 どうしたらいいんだろうか。出荷されるまで懐けば、手放すとき、あっくんも辛いだろうに。

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