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第61話
和葉さんがこの10年で出された31冊の官能小説は、俺のカバンの中に一冊は必ずある。
中でも屈強な警察官のシリーズはとても勉強になる。10年人前に出なかった和葉さんの性癖を理解するのに、だ。
「辰崎さん、ありがとう。ここで」
大学から数メートル離れた場所で停めてもらうと、辰崎さんは不満そうだった。
「竜宮家は特別に門の中まで入ることを許されております。遅刻されている今、これは」
「いい。目立つ行為は慎むよ。注目されるのは好きではないんだ」
「左様ですか」
まだ文句を言いたげだったが有無を言わさずに車から降りた。
都内にある日本で三本の指に入るだろう難関私立大学。竜宮家が莫大な資金を提供し、うちの旧財閥派閥で、この大学出身者のほぼ80パーセントはうちに就職すると言われている。
俺も竜宮家だからと特別な処置はなく、平等な試験で主席入学を果たしている。
なので大学は、和葉さん離れるので不服だが未来の、竜宮家を担う人材探し、コミュニティーの確立する上ではどうしても行かないわけにはいかない。
「昭親さんが来たわよ」
二限目の講義室に入ると、すぐに俺の名を呼ぶ声がする。
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