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第62話

適当に微笑んでおけば、それ以上は踏み込んでこない。 話しかけてくる人は空気を読めない系か、初等部からの馴染みで俺が和葉さんのことを好きだと知っている人たちだ。 「昭親、おまえのせいで俺が今日のグループワークのリーダーしたんだけど」 席に着いて、ブーメランパンツ野郎先生の新刊『ハイヒールは踏まれるためだけじゃなく』を読んでいたら、隣に遠慮なしに座られて眉を顰める。  初等部からの付き合いは付き合いでも、親同士が仲がいいから仕方なく当たり障りない程度の付き合いをしてるだけの人物だ。 立川 恵。 狐みたいに吊り上がった目に、染めて軽薄そうな印象を与える金髪に、ピアス。 兄が市議会議員で今回の同性婚について協力してくれたので、けむに巻くわけにもいかない。 「それは悪かったね。俺も忙しかったんで」 「俺より忙しいのかよ。俺なんて合コンからのオールでそのまま来たんだぞ。シャワーもしてないから香水で誤魔化してるし」 「……一日もお風呂に入ってないなんて不潔でありえない。ちょっと隣に座るの遠慮してくれる?」

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