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第75話

「俺、ちゃんと母に花嫁修業で料理は一通り教わっているので、そんな――」 言いかけてまた和葉さんの表情を見たら、陰りが見えた。 「……そうだな。内臓脂肪に悪そうだし。俺、結構不規則だし、30歳だから油断したらすぐ太るだろうし」 ええ……。何が和葉さんのマリッジブルーを刺激したんだろう。 「えっと、偶になら食べます?」 おずおずと提案すると、ふふっと遠い目をしながら笑い飛ばされた。 どうしよう。どんな角度でも、どんな表情でも、和葉さんは綺麗だけどちょっと怖い。 「いいよ。花屋の店長さん」 「……?」 さっきから花屋って何? もしかして花屋の店長のコスプレとかした方がいいのかな。 エプロン? ああ。朝までのイチャイチャしていた時間に戻りたい。 「とりあえず俺は五個要望を書いたぞ。早く書け」 ペンを転がして畳に手を置くと後ろに少し倒れてリラックスする和葉さんに、俺は自分の用紙を見る。 12個も書いてる。 慌てて何個か誤魔化して減らし、俺も5個書いたことにする。 「できました!」

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