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第80話

「……そうですか。ありがとうございます」 「申し訳ありません。お嫌いでしたら違うものを」 「いえ。嬉しいです! 大丈夫です!」  辰崎さんの手作りが食べたかったなんて口が裂けても言えない。 心配させても悪いので慌ててむしゃむしゃと食べると、慣れた手つきで紅茶まで入れたくださった。 「急なお仕事って、何か事件があったんですかね」 辰崎さんにも勧めるが、彼は優雅に珈琲を飲み、それ以上は口に入れない。 そのストイックでプロフェッショナルな感じ、すごくたまらない。 「競りです。海運会社の競売が今日だったらしく」 「競り……」 「旦那様は、今社長と秘書とともに競売へ行っております。竜宮家の毎年のパフォ―マンスなんです。何千万かけても初物は落札することは恒例行事とでもいいましょうか」 競売……。初物は何千万かけても落札。 真黒だ。金持ち専用の闇オークション。各々達は、自分の力を誇示するために数千万かけて、自分の玩具を、又は病気で患った臓器を変えるために落札、するんだ。 悪いほう、悪いほうに考えてしまう。四つん這いで歩く俺が、怪しいマスクをしたおじさんたちが囲むステージの真ん中で、怪しいライトアップの下、いやらしく腰を揺らして――。

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