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第81話

「和葉さん」 辰崎さんの諭すような声に、顔を上げる。 「このホテルのサンドイッチは、完全予約制、一日10個までの超レア商品です。今日の朝、いきなり食べたくなっても手に入らない限定品です」 「はい」 「そんな風に無味のゴムを噛むみたいなおいしくない顔をされるなら、食べないでください。失礼ですよ」  持っていた、三個噛み痕があるサンドイッチを見て、俺は驚く。 炭火で焼いたであろうチキンは、皮までパリパリで、チーズは溶け新鮮なトマトは甘酸っぱい匂いを漂わせ、おいしそうだ。 なのに、全く味わうこともせず食べていた。 「すいません」 「……何かありましたね。悩みが」 「いえ」 言えない。辰崎さんだって向こう側の人間だ。はぐらかしたり、その場しのぎのウソを言われたら、競売で売られるとき心のダメージがすごいだろうし。 「もしよければ、旦那様のおばあ様からの着物をご覧になりませんか」 落ち込んだ俺を見透かし、辰崎さんがそんな提案をしてくれた。 「向こうで、既に飾っているのです。良ければ、今からでも」

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