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第250話
人ごみはあまり好きではない。あっくんの大学に行った時も、他人の視線が少し怖かった。
けれどそれは俺が10年も諦めて、逃げていたせいだから仕方ない。
「和葉さん、準備できました?」
ゴロゴロとキャリーケースを引く音がして、向こうから来るあっくんへ振り返る。
すると四つのキャリーケースを転がしている。
「……」
「まだですか? 大丈夫ですよ。うちの豪華客船で行くので中で購入すればいいですし」
「じゃああっくんのその荷物は?」
「あー、島に全部持って行ったと思ってたんですが、昨日我慢できなくて。一週間分の水着と、一週間分のサングラスと――」
「意味が分からない」
日替わりランチのように俺は、毎日水着とサングラスを変えないといけないのか。
「あっくんの服は?」
「俺は向こうに全部置いてますんで手ぶらです」
これは俺の荷物か。全部、俺用の荷物なのか。
新婚旅行なので、多少は……多少はお小遣いの範囲内から無駄使いを了承した。
のに、何故ここまで俺のものを増やせるのか理解に苦しむ。
「バッグ一個に減らしておいで」
「ええ!」
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