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1.雷なんか嫌いだ
ゴロゴロゴロ……
遠くから近づいてくるような雷の音に、木下悠 は涙目になった。
あと三日したら実家に帰ろうかとのんびり考えていた自分を悠は呪うことしかできない。
彼は雷が大嫌いだ。もちろん好きな人はいないだろうが、彼はそれこそ取り乱してしまうぐらい嫌いだった。
ピカッ!
「ひっ!」
悠はびくっと激しく身体を震わせて布団を被りなおした。
昼間の、人がいるところならまだいい。怖がっていることをどうにか理性で抑えることができる。しかし一人の時はだめだった。
夜の雷ほど嫌なものはないと彼は思う。
高校の時は全寮制だったからルームメイトがいた。誰かが側にいてくれただけでその恐怖は軽減されたものだった。
けれど大学生になった今、彼は大学の近くのアパートで一人暮らしをしている。たまに友人が泊まりにくることはあるが、今日はあいにくその友人も来ていない。
「……こわいこわいこわい……」
今夜は隣人も不在のようで、周りがシーンとしている分余計に怖かった。
ゴロゴロガッシャーンッ!!
「うわあああっっ!」
そしてそんな時に限ってすぐ近くに落ちたような雷鳴が轟く。涙がぼろぼろこぼれる。悠は布団の中でがたがた震えていることしかできなかった。
……ポーン……ピンポーン……
「……え……?」
そんな殺人的な雷の音の中、彼は呼び鈴の音を耳にした気がした。
ガラガラガラドガシャーンッッ!!
「うわああああんっっ!! やだやだやだーーー!!」
ピンポーン、ピンポーン
「きーちゃん! きーちゃん開けて! きーちゃーんっ!」
「……うえ……え?」
呼び鈴を鳴らす音。どんどんとドアを叩く音と共に、友人の叫ぶような声がして悠ははっとした。急いで顔をパジャマの袖で拭い、這うようにして1DKの玄関に向かう。そして震える手で鍵をかしゃん、と開けた。
途端にドアが開かれ、濡れた髪を掻きあげながら友人ー大島勝哉が部屋に入ってきた。
「ごめん、きーちゃん。タオルある? すっごい雨でさ」
「傘、は?」
「風で壊れた」
「ああ、そう……」
ピカッ!
「ひっ!」
タオルを探して渡した途端カーテンの向こうが光った。悠はとっさに耳を塞いでしゃがみこむ。友人はがしゃがしゃと音を立てて頭を拭いた後、丸くなった悠を抱きしめた。
「ごめんきーちゃん、来るの遅れて……」
「う、ううううう~~~……」
高校からの友人だが、悠が彼に雷が怖いと伝えたことはなかった。けれど教室にいる時に雷が鳴った時身体を強張らせる悠に気づいていたのかもしれない。またぼろぼろと涙がこぼれる。それは恐怖の涙ではなく、安堵だった。
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