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髪を切りに行く

 「髪切りに行こっか」 カイリが作ってくれたチョコミルクのブルーベリージャム入りを紙カップで飲んでいたら、いきなり言うカイリに吐き出しそうになる僕。 「ていうか、髪切らして?」 カイリは右手でピースをして人差し指と中指を離したりくっつけたりする。 「ここで? どっかの美容院?」 僕が聞いてる間に脱いでいたオレンジの革ジャンを着ているカイリ。 「俺の前の勤め先……一応カリスマ美容師だったから切らせてくれるっしょ」 なんて淡々と言うカイリは僕にクリーム色のビニール袋を差し出した。 「これ、上に着て……三角と関本さんのセンスだけど、悪くはないし」 袋から出してみると、黒と赤の長袖チェックシャツだったから羽織ってみた。 「ワンポイント、いつもと違うだけでかっこよくなるからな」 褒めてくれたカイリに嬉しくなった僕はふふっと照れるように笑った。  部屋を出て、電話をしながら先を歩いているカイリについていくと、オレンジの外車が駐車場に停まっていた。 後ろに乗ろうかと思ったけど、カイリが助手席のドアを開けて待っててくれていたから小さくお辞儀をして乗る。 「ヘアモデル扱いでVIP室開けてくれるってさ」 さらっと言ってエンジンを掛けるカイリ。 「本当にいいの?」 さっき会ったばっかなのに……と思う僕。 「いいって言われたら受け取っとけ。甘えるのも大事だぞ」 鏡ごしにキラースマイルを浮かべるカイリに、ありがとうと小さい声で言った。  外を見ながら僕はツクの衝撃的な過去の話を聞いたのを思い出す。 有名な洋楽を口ずさみながらチョコミルクを作るカイリがさりげなく言った割には驚きだった。 それは僕が何気なく棒チョコが刺さったクロワッサンを見て言った一言から始まった。 『チョコが好きなの、ツクから聞いたんだね』 『アートが星人仲間が増えたぁって喜んでたから聞いてやった……あいつ好き好き星人が昔から好きだから』 『昔からってことは……幼馴染?』 『大学が一緒、学部が違うけど……数少ない日本人だったから仲良くなったんよ』 『外国の大学……なの?』 なんてやり取りをしていたら、長い左の前髪を撫でながらこっちを振り向いたカイリ。 『ハーバード大学、アメリカのな』 『あいつああいう感じだけど、心理学の効果を生理学的な観点から分析する? みたいな研究をしてた超頭いい奴だから……見くびるなよ』 カイリは意地悪な笑みを浮かべてたっけな。

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