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始まり2
深い雪がようやく溶け始めた頃。
皆黒 は、誰も住まないという《極寒の森シュヴァイケルン》にやってきた。
碓氷 が張った大きな河を境にして、広大な森が真っ二つに分断されている。
河の向こうには行けそうにない。…もちろん橋を《作る》ことは可能だけど、
それより先に、彼にはやらなければならないことがあった。
「陽王 、そこで待っていろ」
皆黒は、栗毛の愛馬を脇に押しやると、冷たい氷の張った河に目を向けた。
川辺は広い平地になっていて、山側に向かってなだらかな坂になっている。
彼は、そこに自分の家を建てようと考えた。
「木々は支柱に、地中の芥は泥土に、石塊は鋼鐵に、いざ給え、招かれよ」
河を背にして立った皆黒が、両手を広げて呪文を唱える。
そして、
足元から上へ、とゆっくりとした動作で両手を掲げると、
その動きに合わせるように、庭付きの大きな屋敷が地面からすーっと生み出された。
彼が得意とする《入れ替わり》の魔法術だ。
二階建ての大きな屋敷。
屋根は深い蒼色。
彼が一番好きな色だ。
さらに皆黒は、少し離れた場所に馬小屋を《作る》と、
愛馬・陽王のための寝床を作り、
ようやく満足げな面持ちで、屋敷の中に入っていった。
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