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番外編「試練」第二話(R)

血走った目が僕を見つめている。 汗と血の入り混じった匂いが鼻を衝いた。 銀色のナイフが僕の目前に迫る。 駄目だ―…! 試練の日がやって来た。 晴天に恵まれて、空には雲一つない。 僕は急いで大広間へ向かった。 既に、朧や他の老人も集合していて、椅子に鎮座している。 僕は一礼してから扉を閉めた。 「椿丸、そなたにはこれから山奥の洞窟へと向かってもらう。道のりは朧が知っているから着いて行くように」 「はいっ」 「行きましょうか、椿丸様」 朧の後に続き、大広間を出た。 邸を後にし、森の中を進んで行く。 30分ほどだろうか、歩いたところに洞窟が見えた。 中に入るとひんやりとした冷気が立ち込めていて、少し身震いする。 朧は無言で先へと進んでいる。 しばらく進むと、地下へと続く階段が現れた。 「これは…」 「椿丸様、この先はあなた一人だけでお進みください。それから―…」 朧が、背中に背負っていた袋から弓矢を取り出した。 それを僕に手渡してくる。 「ここから先は、とても危険です。お使いください」 「待て、僕はこんなもの使った事ない…」 「使ううちにだんだんと慣れて行きます。大丈夫、ご自分を信じてください」 朧から弓矢を受け取り、頷いて見せる。 朧と別れ、一人階段を下る。 人工的に取り付けられたであろう泰松がその数を増していき、段々と明るさを増す。 階段を降り終えた頃から、何やら騒がしくなってくる。 この声は進むごとに大きくなり、目の前に聳える鉄の扉にたどり着いた頃には、群衆の声だと気づいた。 扉を開くと、そこには見た事ない光景が広がっていた。 鬼たちが金網を取り囲みスタンディングオベーションして、盛大に盛り上がっている。 金網の中では、男たちが力戦奮闘している。 僕はその光景に圧倒され、動けずにいた。すると、近くにいた男が僕に話しかけてくる。 「お前が椿丸か?」 「っそうだけど…」 「機関から話は受けている。着いて来い」 僕は男の後に着いて群衆の脇を擦り抜けて、金網の近くまで進む。 男が説明し出した。 「ここは一部の者しか入れないコロシアムだ。お前には今からここで戦ってもらう。三勝すればお前は機関から頭領としての資格があると認められる」 「こんな場所があったなんて…」 「ここの事は他言無用だ。いいな」 男から念を押され、僕は頷いた。 男の説明によれば、このコロシアムでは生死を掛けた戦いが行われているらしい。 武器は何でもありで、どちらかが倒れるまで戦い合う事になる。 生唾を飲み込んだ。すぐそこに死があると思うと、体の震えが止まらない。 僕は朧から受け取った弓矢を握り締める。大丈夫、朧も見守ってくれているはずだ。 僕は、金網の中で死闘を繰り広げている鬼たちを見つめた。 このどちらかと戦う事になるのだろう、しっかりと動きを見ていなければ。 暫くして決着がついた。それと同時に、男が僕に金網の中に入るよう指示した。 ゆっくりと中に入る。対戦相手はナイフをくるくると回し、余裕たっぷりに見えた。 ゴングが鳴り響く。試合開始の合図だ。 僕は即座に弓矢を放ったが、男にかわされて、失敗に終わる。 男は僕との距離を詰め、そのナイフを僕に向かって投げてきた。 どうにかかわし、次の矢を準備する。 その間に男がこちらへ近づき、ナイフで切り付けてきた。 服の裾が破れて少量の血が滲んだ。 それだけでも痛いが、そんな事言っていられない。後退し、距離を取る。 狙いを定めて矢を放つ。その矢は奇跡的に男の肩に刺さった。 男が呻き声をあげて、その場に蹲る。 チャンスとばかりに僕は更に矢を放った。その矢は男の頬を掠めただけだったが、今は十分の効果があったらしい。 こちらを血走った眼で睨み付け、大声を上げて切りかかってきた。 僕は避けようと体制を低くする。しかし、タイミングが合わずに逃げ遅れてしまう。 目の前にナイフが見えた。ヤバイ―そう思った時、予想外な事が起こった。 男が叫び声を上げ、倒れたのだ。何が起こったのか、解らなかった。 審判も、何が起きたか把握出来ないで居た。 金網に近づいてきた朧の恰好を見て、僕も、多分審判も察した。 朧が場外から矢を放ったのだ。 「この試合は、武器は何でもあり。そうですよね」 そう言って審判に確認をする。審判は戸惑いながらも頷いた。 「では、椿丸様の武器は、俺です。それも、ありですよね」 「朧…」 一気に気が抜けて、僕はその場に倒れ込んだ。 身体が震え、止まりそうにない。 僕と戦った男は、急所を外されていた為助かったが暫く病院から戻って来ないだろう。 こうして、僕の試練は終わりを告げ、頭領として認められた。 「なんだか、これで良かったのかな…」 「使えるものは使えばいいんですよ、例えそれが俺であっても、です」 「なんかなぁ…」 ぐちぐちと言っていると朧が近付いてきて、僕の唇を祖の唇で塞いだ。 「良いんです。椿丸様が勝ちさえすればなんでも…」 「朧、ちょ、誤魔化すな…ぅっ」 「ふふ、俺の名前呼んでくれるようになりましたね」 「っ別に…普通、だろ…」 「可愛いです、椿丸様」 にゅるり、と朧の舌が僕の口腔内に侵入してくる。初めての事で、どうしたらいいか解らない。 朧にされるがままになって、その舌を受け入れた。 歯列をなぞり、僕の舌にそれを絡めてくる。厭らしい音が部屋に響いた。 「ふっん……おぼ、ろっ」 「椿丸様……ヤラシイ顔してますよ?」 「誰のせ…っやぁっ!」 かぷり、と首筋を甘噛みされる。 ゾクゾクした感覚が駆け巡り、厭らしい声が漏れた。自分の声じゃないみたいで恥ずかしい。 首筋を下から上に舐め上げられ、気持ちよくてくらくらした。 「も、首は…や、朧…っ」 「そんなに可愛いと、更にやりたくなるんですが」 「馬鹿っやめろっ!」 朧が僕と目線を合わせて、真剣な表情で言葉を発した。 「椿丸様、嫌だったら仰ってください。…俺は、貴方と一つになりたいと思ってます」 「ば! そんな事…はっきり、言うな…」 真っ直ぐ見つめられ、ドキドキする。 朧がまた口付けてくる。それを受け入れて、僕は呟いた。 「いいのか、僕とで…」 「何故そんな事を…?」 「僕は今までずっと、前の頭領に抱かれてた…それはお前も見ていただろう」 「……ずっと、羨ましかったです」 嘘だ。だって朧は、僕が抱かれている時も終わってからもずっと無表情で…。 驚いている僕を、朧は自身の膝の上に載せて、子どもに話すみたいに語り掛ける。 「毎回毎回、辛くて頭領も俺が貴方の事を慕っているのを気付いていたんでしょう。わざと見せつけるような事を…」 「そんな…」 「頭領の中で乱れる貴方を、何度想像で犯したか数え切れません」 「馬鹿…っ」 「だから、今度は…本物の貴方が欲しいんです…」 そう言って、朧は僕のズボンの中に手を入れた。下着の上からそれを弄られて、敏感な僕はすぐに反応してしまう。 朧は僕のものを扱いたり、弄ったりする。 直接触れてほしい…。僕は、頭領にそうしていたように口を開いた。 「直接、触ってください、僕の汚いの…!」 「…椿丸様、俺は頭領じゃないですよ…」 少し寂しそうな顔をして、朧がそんな事を言う。 我に返った僕は、罪悪感に潰されそうになる。 「っごめ……」 「大丈夫…大丈夫です。ゆっくり、しましょう?」 「うん…」 朧がゆっくりと僕のズボンを下着ごと剥ぎ取った。 僕のそそり立ったモノが露わになる。それを朧は手の中に収め、また上下にスライドさせた。 「はっぁ……ん、あぁっ」 「椿丸様…気持ちいいですか…?」 「んっ……あ、朧、いぃっ」 朧は安心したかのようにほっとした顔をした。 鈴口からは先走りが滲み、朧の手を汚す。鈴口をグリグリと弄られ、先走りを塗りたくられる。 その滑りさえも気持ちよくて僕は朧にしがみ付いた。 「椿丸様…」 「朧、名前っ…僕の名前、呼び捨てで良いっ…」 「っ」 またキスされる。口内を犯され、下の動きも速められた。 「んっふぅっあ! はぁっんんっおぼ、ろ…」 「椿丸……っ好きだ…」 「僕も、朧が好きっ」 ぐちゃぐちゃと水音が部屋に響く。 お互いを貪り合い、舌を絡める。 そろそろ、限界が近い。 「朧、僕もうっ……!」 「一度、イってください」 「うっあ……朧っおぼろ……っん、あっあっあぁあああ――…!」 目の前が弾けた。僕は朧の手の中に性を放った。 朧が汚れた手をぺろりと舐める。それだけで恥ずかしくて、僕はそっぽを向いた。 それを良い事に、朧は僕の腰に手を置き、ゆっくりと後ろの窄まりに指を入れてくる。 異物感に眉を潜めた。 僕の精液で濡れた指は、するりと簡単に侵入してくる。 ゆっくりと抽送を繰り返され、段々と異物感がなくなってくる。 「朧、もう、朧が欲しい…っ」 「ッそんな可愛い事を言われたら、優しく出来ませんよ…っ」 朧は自身をズボンから出し、後ろに宛がった。指よりも太いそれが、ゆっくりと入ってくる。 圧迫感に、上手く息が出来ない。 朧が背中に口づけて、耳元で囁く。 「椿丸、ゆっくり…吸って、はいて…」 「っは、すー、はっ……」 「そう、上手だ」 よしよしするように、朧が僕の頭を撫でる。 こそばゆくて、恥ずかしい。朧が一気に、自身のモノを詰めてきた。 目の前がチカチカする。 「やっ、奥は…や、ぁ…」 「嫌じゃないだろ?」 「っいや…」 肉のぶつかり合う音と水音が一層大きく聞こえた。 朧は僕の奥を衝く様に、腰を動かす。 衝かれる気持ちよさに、僕は声を上げる事しか出来ない。 朧のモノが僕の中にある―。その事が嬉しくてうれしくて仕方なかった。 「つばき、まるっ」 「んっ朧、おぼろぉっ…気持ちいいよぉぉ」 「ふふっ、椿丸は、快感に正直ですね…」 「こんな、気持ちいいの初めてだもん…っ」 「頭領とは…?」 意地悪く朧がそんな事を聞いてくる。 「あっそんなの、っ全然ちがっ…あんな奴、気持ち悪いだけ、だっ」 「じゃあ、今は…?」 「さっき、言った…ぅっ」 「ちゃんと、聞かせて?」 また耳元でそんな甘えた声を出される。 こいつ、慣れてないか? 少しイラッとした。 「いわない…」 朧が動きを止める。それだけなのに、切なくて、僕は朧を見つめた。 「ちゃんと言ってくれないと動かない」 「っ意地悪……」 「椿丸…?」 「っ朧の、気持ちいい、もっとして…いっぱいしてっ…」 朧がニッコリと微笑んで、僕の髪に口付けを落とす。 朧はまた動き出す。 朧は限界が近いのか、その動きは性急だった。 「椿丸様…っ」 「朧、いいよっ僕も…もうっ」 「っ!」 動きがさらに激しくなる。 僕は揺さぶられながら、こんなに幸せな事はないと思った。 「椿丸様っ…!」 「あっ朧、おぼろっあぁっあああぁああ――」 「…っ…!」 僕らは、同時に果てた―…。 「…る様…」 「…ん…」 「椿丸様」 その優しい声で目が覚めた。 僕はあのまま眠ってしまったらしい。 横を見ると、椿丸が優しい表情で僕を見つめていた。 「朧…?」 「はい、朧でございます」 「僕、寝ちゃった…?」 目を擦りながら布団から起き上がる。 ぼーっとしていると、朧も起き上がり、僕を抱きしめてきた。 「おはようございます」 「ん、おはよ…」 ちゅっとおでこにキスされた。 見ると、きちんと部屋着を着ている。朧が着せてくれたのだろう。 昨日の今日で気恥ずかしいが、朧はそんな事、きっと思っていないだろう。 先ほどから、どうも距離が近い。 「さて、僕も頭領と認められたんだから今日から改めて頑張らないとな!」 気合を入れ直す。 立ち上がろうとして、手を朧に引かれた。 「え、ちょ、何朧…」 「仕事も大事ですが…まだ仕事をするにはお早い時間ですよ」 「っま、さか…」 その後、僕がまた朧に泣かされた事は言うまでもない―…。 ​ <完>

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