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Side ユウタ

 夏休み初日。午前中の補習を終えた俺は、クラスメイトかつ親友かつイケメンヤリチンの玉木を部屋に呼んだ。  たったの二点差だったけど、玉木は補習を免れている。一番暑い時間の呼び出しに、玉木は『わかった』と短い返事をくれた。コンビニで待ち合わせ、飲み物とかアイスとか買い込んでから部屋に入る。 「あっつー……」  エアコンが効くまで待てないと、玉木が部屋の隅に転がっていたうちわを引き寄せて扇ぐ。少し長めの髪が束のまま浮いて、形のいい耳に光るピアスが丸出しになった。  少し長めの首。外国の血が入っていそうな濃い顔立ち。玉木は友達の中で一番格好いい。つい見とれてしまうこともしばしばだ。玉木の何分の一かでもいいから俺にも男っぽいフェロモンがあればいいのに。  アイスを食べているうちにエアコンが効いてきて汗がすーっと引いていく。 「あのさ……玉木に相談あんだけど」 「なに?」  片膝を立てて背中をベッドに預けていた玉木がベッドの上の俺を振り返る。顔なんか作ってないのに自然にしていてもいちいち玉木は格好いい。だから不特定多数のヤリトモがいるって話……詳しくは知らないけど。 「えっと……」  形だけ首にかけているネクタイをそのままに、半そでシャツのボタンを一個一個外した。玉木が見てるってだけで指先が震えて、たった五つのボタンを外すのにいつもの倍、時間がかかった気がする。 「着替えんの?」 「じゃなくって……その、」  なに? ってちょっとだけ玉木が眉を寄せた。挙動不審な俺にイラついているのが分かったから、思い切って告白した。 「お、おれの乳首開発して……くんない?」  ボタンを全部外したせいで、すっと冷気がシャツの中に入り込んでくる。同時に玉木の視線もまたシャツの奥を探るように動いた。 「なにそれマジ?」 「う……まじ、で」  うちわを床に置いた玉木が身体ごと俺を振り返る。体重がかかったせいでマットレスがそちらに傾く。 「自分でやっても全然だめで……ひりひりするだけっていうか…………きもちくなんなくて」 「ユウタ、乳首開発したいんだ」 「ん……なんか、動画見てて……興味出た」 「へー」  ネコ科の動物みたいなしなやかさで玉木がベッドに上がってくる。笑うでも気持ち悪がるでもなく、真顔で迫られて俺はひるんだ。  後ずさるのにどんどん距離を詰められるから、ついには壁際に追い詰められる。 「それで俺なの。なんで?」 「だって……玉木が一番経験豊富そうだし……指先器用そうだし…………雰囲気がエロい」 「ふーん……ユウタくんはエロいことして欲しいんだ」  玉木の指が緩んでいたネクタイのノットに掛かる。そうしてそのまま解かれ、しゅるりとシャツから引き抜かれた。  怖い。蛇に睨まれたカエルってこんな感じ? 逃げ出せばいいのに、動いたらあっという間に捕食されてしまう。そんな雰囲気があった。

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