5 / 5

5

‥‥‥‥部屋の中が、明るい‥‥ ‥‥朝?いつの間に? おれ‥‥俺、意識飛ばしたんだ。 初めて、だ。 セックスで意識失くしたの、初めて‥‥ 腹に回る優大の、手。 顔が見たくて向きを変える。‥‥優大。 凄く、いい匂い。 優大の、顔、髪、肩。 指を滑らせて、感じる、優大を。 「‥‥ん‥‥なおき‥‥、直希、起きたんだ?」 「優大、おはよう。」 「おはよう‥‥今何時?」 「ええと‥‥うそ、四時だ。え、こんなに明るいの?」 「‥‥ああ、夏だな。」 優大が体を起こす。胡坐に座り直して。 前髪を弄ってくる優大の手がくすぐったい。 「直希、体、大丈夫?」 「昨夜‥‥、ごめん、俺、」 「いいよ。ちょっと驚いたけど。‥‥本当に気持ちよさそうだった。」 穏やかな、満足そうな、優大の顔。 汗の跡の残る髪。 俺の奇跡。 俺も優大に触りたい。 あ、でも‥‥ このまま体を起こしたら、垂れてくる‥‥? 「直希も起きる?」 「うん‥‥でも、」 「ん?ああ、大丈夫だよ。外に出した。」 「‥‥ごめん。」 「だからいいんだって。‥‥あんなに感じてくれる直希を見られたんだから‥‥」 優大の指が頬に下りてくる。 指先で鼻の頭を掻かれて。 「それでもお釣りがくる。」 指は眉間を通って、額から耳へ、顎へ下りて、唇へ。 優大の指先を咥える。 舌で擽って。 口を閉じて目を閉じて、優大の指先に吸い付く。 そっと目を開ければ、俺を見ている優大。 視線が絡まる。 お互いに口元が緩んで‥‥ どちらからともなく笑いだす。 優大に手を引かれて体を起こして。 勢いのまま優大にしがみつく! 「おはよ、優大。」 「おはよう、直希。」 俺を包む優大の匂い。 ああ、気持ちいい! 啄む様なキスを音を立てて終わらせると、優大がベッドから降りる。 裸のままカーテンの隙間に立って、カーテンの端を握っている。 外からの光の中で、シルエットになる優大。 彫刻みたいで綺麗だ。 「カーテン、開いてたな。」 「少しね。‥‥空、よく晴れてる?」 「直希?‥‥待って。」 ベッドから降りた俺に優大が近づいてきて‥‥ 足元のバスタオルを俺の腰に巻いてる。 「優大は?」 「俺はいいの。でも、直希が他の誰かに見られるのは、駄目。」 「温泉は一緒に入るじゃん。みーんなに見られてるけど?」 「温泉はみんなに見せつけてるの。俺の直希はこんなに可愛いぞ、ってね。」 「なんだよ、それ。」 二人でカーテンの隙間から空を覗く。 空はまだ白っぽくて、一日はまだ始まる前だって言っているみたいだ。 優大が後ろから抱き締めてくる。 温かさと匂いに寄り掛かる。 「まだ腹減らないなぁ‥‥」 「直希、こんな朝早くから?」 「昨日のカレー、食べたいじゃん?」 「後でな。‥‥そうだ、カレー、買いに行こうか。」 「ん?」 「農業高校のカレー、限定だよね?買いに行こう。」 「電車?車?」 「そうだな‥‥車にして、近くの温泉泊まろうか。」 「露天風呂ある所がいいな。」 「そうだな。あと、隣の県なら有名な神社があるよな、」 「樹齢千年のご神木?」 「そうそう。拝みにいこう。」 「あ、でも限定販売、いつまでだろう?」 「売ってるの道の駅だろ?電話で問い合わせが速いかな。」 「いつまでか聞いてみるね。‥‥でもさ、今日と明日は、さ、」 「‥‥二人で過ごす?」 「うん。」 優大を振り返る。 キスが降りてくる。 朝の光と、優大の匂い、休みはあと丸二日。 「こんな時間に起きてるのって、俺達の他はコンビニの店員ぐらい?」 「‥‥あとは新聞配達とか?‥‥夜勤明けとか。」 「結構いるんだ‥‥優大、外、出てみない?」 「いいね。散歩するか。‥‥その前にシャワー浴びよう。」 「このまま‥‥じゃ、駄目かな‥‥」 ‥‥優大の匂いと一緒に歩きたい。 やっぱり優大の匂いが、俺は好き。 でも。 昨夜、知ったんだ。 きっと一生忘れることは無い。 匂いの向こうにいる、俺に与えられた奇跡、優大。 大切な優大が纏う匂い、それが、俺が好きな匂いなんだ。 「俺はいいけど‥‥直希、いいの?」 「なんで?」 「‥‥昨夜のままで。」 優大が腰を撫でる‥‥あ! ‥‥でも、‥‥でも。 「いいよ。優大と歩きたい。」 優大が微笑む。これ以上ないくらいに、嬉しそうに。 キスをもらって、キスを返して、目が合って、もう一度キスをして。 「顔と髪くらいは拭かせてくれよ。」 「ん。」 頭を撫でられて、額にキスをされて。 俺から離れた優大が、廊下に続くドアに向かう。 俺はクローゼットに。 振り返れば、カーテンの隙間の向こうに、光。 ガラスの外から部屋に溢れて、光の道を創っている‥‥ 今日も、暑くなるかな。 fin.

ともだちにシェアしよう!