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第1話
俺は間が悪い。
今夜だってそうだ。急いでいたからいつもは通らない公園を横切って軽快に柵を飛び越えたばかりに修羅場に遭遇した。
柵を飛び越えたまでは良かったのだが、視界に男女の人影が入った瞬間、やばそうな雰囲気を察するも遅く、俺が着地したのとほぼ同時に女の方の手が空を切り乾いた音が響き渡る。
そして驚いたのが平手打ちされていた男が同じ高校のクラスメイト。しかも、この上なく気の合わない三芳 だった。
呆気に取られている中、女は「もう、終わりにして」と強い口調で言うと踵を返しそのまま振り返ることなく行ってしまうと、不意に三芳と目が合った。しかし三芳はあろう事かそのまま何事もなかった様に帰ろうとする。
「おい! なんか言えよ。気まずいだろ!」
「気まずくないけど。たまたま笠松 がいただけだし」
気の無い返事をすると三芳は俺の事を、たまにそうする様に睨んでいた。
三芳は学校ではちょっとした有名人だった。親は有名小説家の北郷兼芳 で、本人も成績優秀の眉目秀麗。今年初めて同じクラスになった時、友達になろうと早々話しかけに行ったのだが、なぜか今みたく睨みつけられるだけで無視されてしまった。
それ以来、何かしら目は合うのだがその度に睨まれるだけで会話なんて殆ど交わさない。
他のクラスメイトとは少し喋ったりしているのを見る限り、俺は睨みたくなる程嫌われているようだ。
…………。
「あ──!」
「な、なんだよ。いきなり」
突然、俺が大声を上げるものだから三芳は驚いた顔をしていたが、俺は泣きそうな顔をしていたと思う。
三芳の修羅場に付き合っている場合ではない俺は、今日急いでいた事、年に一度ある見たいテレビ番組がある事、三芳の修羅場のせいで間に合わない事を告げた。
しかしあっさり帰ろうとするので咄嗟に腕を掴み、こうなったのは三芳のせいだからテレビをみせてくれと頼んだ。
しかし流石になかなか首を縦には振ってくれず、無駄な言い合いが続く。
「元はと言えば三芳のせいじゃん!」
「勝手に柵を越えてきたのは笠松だろ」
でも何を言っても返されて、それ以上何も言えなくなり。今年は諦めるしかないと、がっくり肩を落としゆっくりと歩き出した瞬間、後ろから溜息が聞こえたのと同時に腕を捕まれた。
「そんな顔されると俺が悪いみたいだろ」
三芳は気が変わったのか、家に来てもいいと言いだした。
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