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第2話

 三芳の家は駅近くの高層マンションだった。さすが北郷兼芳の自宅だと思いきや、ここに三芳は一人で住んでいるらしい。  通されたリビングには沢山の観葉植物と壁一面の本棚があって、その本棚にはぎっしりとハードカバーが並べられている。  それにテレビも大画面で、ソファは勿論座り心地も良く、見晴らしも高層階だけあって抜群に良くて、とにかく広い。こんなに広かったら掃除とか大変なんじゃないかと思ったけど、そういうのはハウスキーパーがやってくれると聞き、また驚いた。  さぞかし食生活も優雅だろうと思いきや暫くして三芳がキッチンから持ってきた固形栄養食と飲み物を見て驚愕する。なぜならこれが夕食で、しかも大体いつもこうだと言うからだ。 「掃除に来てくれる人って食事は作ってくれないの?」 「断ってる」 「なんで?」  返事がないから急いで三芳の冷蔵庫を確認した所、そこには見事に飲み物とゼリー飲料しかなかった。 「お前、こんなんじゃいつか倒れるぞ」  しかし三芳は何食わぬ顔でテレビを見ているので、鞄からおにぎりを一つ取り出した。 「これ、やる」 「何これ」 「今日、従兄の店手伝ってたんだ。賄いのおにぎり。いっぱい貰ったからお前も食え」 「いらないよ。笠松のだろ?」 「余ったら夜食にしようと思ったのだから。いいから食え」  しかし三芳は頑なに受け取ろうとしない。 「早く受け取れって! じゃないと気になってテレビに集中できない!」 「気にしなくていい」 「気になるだろ。つかハウスキーパーもだし、さっきの人もだ。なんでお前の食生活もっと気にしてやらないんだ!」  未成年だぞ! って、ちょっと苛つきながら顔を上げると三芳は少し驚いたように軽く目を見開いて俺の事をじっと見ていた。 「な、何?」 「笠松にとって俺が飯食うとか食わないってそんなに重要?」 「知らない所でなら何しててもいいけど、目の前は別だろ」  すると観念したのか三芳は俺の手からおにぎりを受け取り、くすっと笑う。 「……お前ってお節介だな」  笑った所なんて初めて見たので愕いていると、三芳はそのまま淡々と話し始めた。 「俺、変わった病気でさ、人肌に触れないと眠れないの」 「病気?」 「そう、眠れない病気。だから夜な夜な人を連れ込んで人肌に触れる事ヤってるわけ。だからハウスキーパーが夕飯作って待ってると厄介だし、相手だってヤるだけだから俺の食生活とかも気にしないの」  色々と衝撃的な内容ばかりだったが、それを他人事の様に話す三芳の姿は少し寂しそうに見えた。 「病院とか行ってるのか?」  するとまた三芳は目を丸くした。 「信じるの?」 「え、嘘なのか?」 「嘘じゃないけど人肌がないと寝れないとか普通信じないだろ」 「普通とかわかんねぇよ。つか、人肌って手繋ぐとかじゃだめなの?」  そう言いながら手を取ると咄嗟に振り払われてしまう。 「セックスじゃないと意味ないの」 「セッ……!? そ、そんな露骨に言うな!」  俺が焦りだすと肩を振るわせながら今度は歯を見せて笑った。 「笠松って童貞?」 「なっ……!」  俺の反応を見てやっぱりかと言いながら笑い続ける三芳にむっとしたが、腹を抱えて笑っている姿がいつもの妙に大人びた感じとは違って子供っぽく見えてまた新鮮だった。  なんだ。こんな風に笑えるんじゃん。 「さっきの人ってさ、……やっぱ、ひ、人妻?」 「そうだよ」  うっかり想像しそうになって顔が熱くなるとまた笑われてむっとしたけど、今晩はどうやって眠るのかが気になった。  すると三芳は不意に俺の顔を覗き込むと妖艶に目を細める。 「じゃあ、笠松に相手して貰おうかな?」 「え!?」  思わず固まると、また吐き出す様にして笑いだしテレビ画面を指さす。 「始まってるぞ」 「あ! またお前のせいで見逃すところだった」 「よく言うよ。俺のお陰だろ?」  案外よく笑う三芳がおにぎりを食べているのを見て、少しほっとしながら視線をまたテレビの方へと向けた。

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