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第3話
*
「難しそうな本ばっかり。全部読んでるの?」
「全部読んでるよ」
「ちょっと本棚見ていい?」
「いいけど触るなよ」
テレビ鑑賞を終え、今度は壁の本棚を見上げていた。やっぱり小説家の息子は読書家なのかと妙に納得しながら、一段ずつ見ていく。
本棚には北郷兼芳の本は勿論、教科書に載っているような文豪から最近話題になった現代小説までバラエティ豊かに取り揃えられていて、これを全部読んでいるなんて俺には出来ない事だから本当に凄いと思う。
「漫画とかはないの?」
「ないよ」
その返事に少しがっかりしながらまた本棚を見ていくと、端の一番下の棚だけ他の棚より本が僅かに前に出ていた。そしてその隣には本棚の幅と同じサイズの箱が納められていて、この一角だけおかしい。
もしや三芳のエロ本の隠し場所か? って興味本位で思わずその本を取り出し奥を覗き込むと。
……そこにあったのは。
「おい、勝手に出すなよ」
俺が本棚を触っている事に気付いた三芳は慌てていたが、その奥を見た俺は目を輝かせていた。
「あるじゃん、漫画。なんで隠してたの? これ俺も好きなんだ!」
その出っ張った棚には今は絶版になってしまった漫画が全巻揃っていて、その隣の箱の中にはテクノのCDが入っていた。
「すげーコレクションだな!」
思わず手に取って満面の笑みで振り返るも、三芳は視線を逸らしながら頭を掻き溜息をついた。
咄嗟に勝手に触った事を謝るが、その顔は怒りながらもなんとなく照れているようにも見える。そして聞いてみると、ミキサーまで持っているらしい!
「テクノ好き周りにいなかったから俺、嬉しい!」
満面の笑みで返すと今度はほんのりと頬を赤らめた気がして、その表情は少し可愛いとも思った。
絶対にわかり合える事はないと思っていたのに、こんなにも共通点があったなんて久しぶりに俺は浮き足立っていたかもしれない。
「よーし! 今日はこのまま泊まらせて」
「嫌だよ」
俺の思いつきに当然渋る三芳だったけど、どうしても泊まりたい俺は家に電話をして親に友達の家に泊まってもいいという許しを勝手に得ると漫画とCDを手にして三芳をソファに座らせる。
「ってことで一緒に読もう」
「勝手だな」
三芳は面倒臭そうに溜息をついたが、諦めたのか俺が渡した本を受け取った。俺は同じく箱の中から出してきたCDをプレイヤーにセットする。
「後でミキサーいじってもいい?」
「いいよ」
「やった」
俺が笑って三芳のほうを見れば三芳も自然に笑っていて、打ち解けた感じが嬉しくて、視線を本のほうに向けた。そして、暫く何も話すことなくテクノの流れる中で本を読んでいた。といっても読んでいるのは主に俺で、三芳は何故か俺のことを見ている。
その視線は前みたいに睨まれているという感じではないから、なんとなくそわそわした気分だった矢先、すーすーと規則正しい息づかいが聞こえ、見てみると三芳が寝ていた。
(あ、寝てる)
それは結構深い眠りで、ちょっとやそっと動かしたくらいじゃ起きなさそうだった。部屋はクーラーが効いているので少し寒いかもしれない。さすがに勝手に寝室らしき部屋に入るのは気が引けるので、バスルームを覗き大きめのバスタオルを見つけて掛けてやった。
「……眉、下がってる」
それは安心しきった寝顔にも見えて、ゆっくり眠れたらいいなぁと思いながらまた本に視線を戻した。
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