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最終話

「俺、考えてた。どうしてこんなにも三芳の事が気になるのか。他の人といてほしくないって思うのか。遠回りしたけどわかったんだ」 「自分で何言ってるかわかってる?」 「うん。三芳がそうだって知って、もやもやしてた感情の名前がわかった」  すると三芳は気が抜けたのかそこに座り込んでしまった。 「なんだよそれ」そう言いながら頭を掻く。 「好きって事だけど」 「俺は本気だから。後で笠松が違ったって言ってももう遅いからな」 「……動画も見たから大丈夫だと思う」 「ど、動画見たのか!?」  珍しく三芳は焦った様に声を上ずらせた。 「だって俺、初心者じゃん。でもなんか気持ちよさそうだったから、大丈夫」 「大丈夫なのかよ」  そう言って今度は溜息をつき、頭を抱え始める。 「……俺、変な事言ってる?」 「笠松が天然人たらしな事はわかった」  なんだよそれって思っていると三芳が俺の腕を引っ張って抱き寄せた。 「遠慮しないからな。本当にいいんだな」 「うん」  するとぎゅっと抱き寄せて安堵したかの様に息を吐いた。 「……夢みたいだ」  ぼそっと呟かれるとなんか気恥ずかしくなって肩に顔を埋めた。すると三芳が俺の頭を撫でる。 「一目惚れだったんだ。入学式の時に」 「え? 二年で同じクラスになった時喋りかけに行ったら無視したじゃん」 「いきなり喋りかけられたらビビるだろ」 「その後もずっと睨んでたくせに。俺、嫌われてると思ってた」 「……意識したら喋れなかったんだよ。でも、笠松が友達と喋ってるの聞いて俺も笠松の好きなもの集めたりした。趣味ではなかったけどな」  また強く抱きしめる。その時、大きめの花火が上がった。 「あ! 願い事!!」  俺が顔を上げるとそんな事どうでもいいと言うようにまた三芳が俺の事を抱き寄せ言った。 「俺の今の願い事叶えてくれる?」 「何?」  すると耳元でこっそり内緒話でもするみたいに「キスがしたい」といった。  途端に真っ赤になる俺を見て三芳は微笑み顔を近付けた。 「あ、待って」 「待たない」 「違う。俺、初心者って言ったじゃん。だから下手だと思う」  大真面目に宣言する俺を見て三芳はまた笑った。 「笑うなよ」 「真面目か」 「だってガッカリされたら嫌じゃん」 「がっかりなんてしないよ。嬉しくて堪らないのに」 「あ、後さ、聞いときたいんだけど。ケツって痛くない?」 「はぁ?」 「だって俺がされる方だろ? え? もしかして俺が上とか? それは、童貞だからハードルが高けぇ」  すると三芳は落ち着くように言った。 「動画では気持ちよさそうだったけど、実際怖ぇじゃん」 「……お前さ、どこまで受け入れるわけ? なんでそんな普通なの?」 「え? これが恋ってやつなんじゃないの? 三芳が喜ぶ事はしてやりたい」  あっけらかんと言う俺に手で顔を覆うと歯を見せて笑う。 「お前には完敗だわ」  そう言いながら顔が近づいてくる。 「あ、キスってさ……」  まだ聞きたい事があったけど、それは三芳に遮られた。 「もう、黙って」  その瞬間、柔らかい感触が触れすぐに離れた。  そしてまた大きな花火が打ちあがる。  唇が離れたと同時に、目に入ったのは三芳の柔らかい笑顔だった。  途端に胸の鼓動が大きくなる。  俺はこの顔が見たかったんだ。 「来年もこの花火が見たい」  すると三芳は目を細めた。 「来年だけじゃない。この先もな」    花火によって伸びた影が、また重なった。 終

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