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鳴クマデマトウ

「ふうん、面白い。お前のことよく知らないけど、別に嫌いじゃないし。夏の思い出のひとつだと思えば、男同士の火遊びも楽しそうじゃない?  オレ、今まで告られて断ったことないんだよね。  このオレを誘ったんだ、お前の本気を見せてもらおうじゃないか。そうだな、勉強漬けの合宿で娯楽も無いし、今夜は無風の熱帯夜でイライラするから、あの風鈴でも鳴らしてよ。マジックでもトリックでも神頼みでもしてさ、いい音鳴らしてみせてよ。それが付き合う条件。  …オレのこと、堕としてみろよ」  眼鏡の内側に意地の悪い好奇心をくゆらせ、値踏みするように目の前の男を眺めた。 「わかった! ありがとう、待ってる間、君の時間を僕にくれるなんて嬉しいよ!」  いえーい♪などと浮かれるコイツの神経はどうなっているんだ? 呑気か? 脳天気? 超ポジティブ思考の持ち主か。こっちは無理矢理テレビもネットもない合宿に閉じ込められて腹が立っているというのに、この差はなんだ?  目の前の地味な男は、捉えどころのない風貌なのに何故こんなに朗らかなんだろう。ひとしきり眺めてみたが、さっぱりわからない。 「お前の顔、なんの特徴もないな。」 「ありがとう! それって場に溶け込めるってことで、凄い才能だよね!」  …褒めたつもりないぞ。 「空気みたい。」 「そんなに必要としてくれるの?」  …あのなぁ。 「風鈴が鳴るまでの時間を僕にくれたんだね!何をしようか!」 「勝手にしろよ。鳴らさなきゃ、お前の言うような関係にはならないんだぞ?」 「うん、鳴るよきっと。鳴るから付き合ってよ!」  まもなく合宿初日の深夜0時。  ……お前、いつまで居座る気だ?  何をするでもなく、オレの顔を見てニコニコしているコイツを見ていたらひとりでイライラしているのが馬鹿馬鹿しくなって、なんだかあの風鈴が鳴ってくれても良いような気がしてきた。 [鳴くまで待とう編 おしまい]

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