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コロシテシマエ

「ふうん、面白い。お前のことよく知らないけど、別に嫌いじゃないし。夏の思い出のひとつだと思えば、男同士の火遊びも楽しそうじゃない?  オレ、今まで告られて断ったことないんだよね。  このオレを誘ったんだ、お前の本気を見せてもらおうじゃないか。そうだな、勉強漬けの合宿で娯楽も無いし、今夜は無風の熱帯夜でイライラするから、あの風鈴でも鳴らしてよ。マジックでもトリックでも神頼みでもしてさ、いい音鳴らしてみせてよ。それが付き合う条件。  …オレのこと、堕としてみろよ」  眼鏡の内側に意地の悪い好奇心をくゆらせ、値踏みするように目の前の男を眺めた。 「アンタ、案外面白いことを言う奴だったんだな。」  やっぱり直に喋ってみないとわかんないもんだねぇとニヤリと笑うと、男はオレに念押しした。 「手を使わなきゃいいんだよな?」  上目遣いの圧に負けて、無言で頷くしかできなかった。  目の前の男は、腰まで下げ気味に履いていた薄いグレーのスウェットパンツを引き上げ、ウエストの紐を締め直した。  そのまま無言で軒下に歩み寄り、オレの方に向いて深呼吸をひとつすると……大きな弧を描く後ろ回し蹴りを繰り出し、硝子の風鈴の位置で寸止めした。  ピシリと音がして、空気が凍り付く。 「叩き割ろうかと思ったけど、それじゃつまらないから止めた。あれ?止めきれなかったかー。ヒビが入ってる。」  怖いと言うより、見惚れた。 「ほら、鳴っただろ?聞こえなかった?  ほらほら、今度はお前の番だよ。鳴らす番じゃないよ、鳴く番だって。さて、どんな音で鳴くんだろうなぁ」  自慢げに顎を上げて、オレを見下ろす。ご褒美くれよ、と、ゴツい手がオレの耳の後ろに伸びてきた。 「こっちの寸止めは無しだからな」  熱を帯びた視線に負けて、頷くしかできなかった。 [殺してしまえ編 おしまい]

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