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春 1

今年の桜は咲き始めが早く、4月に入る頃にはすでに満開で駅からの道を淡く彩っている。 駅前にある塾の春期講習の帰り道、桜に惹かれて公園に寄ってみた。 もうすぐ夜10時になろうというのに人通りはまだ多い。 何組かのグループが桜の下で花見を楽しんでいるのを見て薫はそっとため息をもらした。 明日は断り切れなかった集まりがある。 系列の女子校生と花見ををやるらしいのだ。 人見知りを自称し口下手でコミュニケーションもろくに取れない薫には苦行でしかない。 憂鬱な明日のことを考えながら、しばらくライトアップに浮かび上がる夜桜を眺めた。 桜は好きだ。 春の訪れと共に一斉に咲き誇り、そして未練など無いように潔く散る。 刹那に咲く姿に自分を重ねてみる。 散りゆく己は容易に浮かぶけれど、咲き誇るなど想像も出来ない。 はらはらと散る花びらを見るとはなしに目で追った。 公園の遊歩道に立ちつくす薫は儚げな風情でその周囲の視線を集めていた。 身長は170センチを超えたほどで、線の細い華奢な体つきに中性的な顔立ち。 眼鏡で隠れていても、涼し気な顔立ちは人目を引く。 いきなり背後から腕を取られ薫は我に返った。 振り返って相手を確認して一気に緊張が解ける。 そこにはコンビニの袋をぶら下げたクラスメイトがいた。 薫の高校は入学時に細かくコース分けするため3年間クラス替えがない。 「こんな時間になにやってんの? ぼーっとしてたら絡まれるよ」 早口でそう言うと彼は薫の腕を掴んだまま公園から連れ出した。 駅のロータリーに続く道を2人で歩く。 「タチの悪い酔っ払いもいるんだから気をつけなよ」 高橋はそれでなくても目立つんだから、と彼が呆れたように言う。 「ありがとう、立花」 感謝を込めて微笑みながらお礼を言うと何故か顔を背けられた。 何か気に触る事をしたのか。 上手く人付き合いも出来ない自分に苛立つ。 いつもこうだ。 またため息が出る。 なんて言えばいいのだろう? 「明日のこと…」 「明日?……ああ花見明日だったっけ?」 珍しく高橋も来るって斎藤たち盛り上がってたからな。 立花が小さく呟いた。 「あの、断りきれなくて」 言われるがまま流された結果だ。 自業自得と言うべきか。 断りたくても言葉が出てこない。 言いたいことを上手く言葉に出来ない自分がもどかしい。 「立花はさ」 真っ直ぐに薫を見ながら立花が言った。

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