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第1話
いきなりですが、腐男子卒業者です。
いや、足洗ったって意味ではなく、腐ったレベルでは済まなくなりましたって意味で。
属性柄ネット上の友人は腐女子が多くて、彼女たちの言うには、本人の性癖はノーマルでありながら腐った読書傾向のあるのが腐男子であって、本人が彼氏持ちならただのホモだということだそうで。
いや、性的興味は女性に向いてるのでせめてバイと呼んでください、と土下座して懇願してみたら萌えられました。
そういうわけで、BLドンと来い派です。
それを踏まえて、主張をもうひとつ。
王道もアンチも勘弁しろ。
あんなもんはフィクションの中だけに閉じ込めとけっての。
いや、マジで。
お願いします、神様。
※
都内多摩地区某所。
まだ緑地の多い丘陵地帯の一区画を切り取って、その学園は存在する。
鷲ヶ尾学園。
上流階級の子息を主とする学生構成で幼年部からの一貫教育を提供する学校法人だ。幼年部、小等部は親元で暮らすことを推奨されているため、寮に暮らすのは自宅が遠距離なごくわずかだが、中等部からは男女に分かれたそれぞれに全寮制になっている。
学費は寮費を含んでいるとはいえ多少割高で、進学時に自然と増える外部生もそこそこの財政力ある家庭の子息ばかりになる。そのため、階級格差によるトラブルはほぼない。
多感な年頃の子供を同性のみの環境に閉じ込めるのだから、当然のように同性愛者は増える傾向にあった。学内公認カップルでも卒業してしまえばすぐ別れてしまうのが大半のようだ。
そんな特殊な学校法人を経営しているのが、うちの父方の叔父だったりする。
元々我が鷲尾家は経営者気質な家系で、それぞれ全く接点はないものの親類全ての経営業態を寄せ集めれば手掛けていない業種はないんじゃなかろうかと言えるほど多岐に渡っている。
その中で、叔父は曾祖父の代に起業した学校法人を5つほど管理している。父の世代では最年少の叔父は、むしろ曾祖父の仕事を引き継ぐ子孫がなくての貧乏クジを引かされたクチだ。
とはいえ、経営手腕においてはさすが鷲尾の血筋で、曾祖父が亡くなって一時的に他人が雇われ理事長などしていた間に少子化の影響もあって傾きかけていた法人格経営をたった3年で黒字に立て直したやり手ではある。
俺にとっては、歳も比較的近いし去年のバタバタもあって親戚の中で一番親近感のある相手だった。
でなければいくら叔父の頼みでも一肌脱ごうとは思わなかっただろう。誰だって面倒事は避けたいんだ。
鷲尾家も多分に漏れず晩婚化が進んでいて、親戚一同で高校生は俺一人、下は中学生と小学生と幼児が一人ずつという少なさだ。このうち幼児は件の叔父がシングルファーザーで育てている可愛い従兄弟くんだったりする。
そのため、叔父が頼める相手は俺だけだったっていう事情もあるんだ。学園に発生する厄介事の解決を学生の立場から手助けするために転校してほしい、なんてね。
で、話は冒頭に戻る。
察しの良い人ならもうお気付きだろう。叔父が俺に泣きついてきた問題事こそ、その王道転校生の存在だった。
常識知らずのわがまま放題、悪い友達に感化されて夜遊びを繰り返し補導されること30回を超え。その都度揉み消してきた警察に顔の効く権力者な保護者も堪忍袋の尾をぶち切って、全寮制お坊ちゃん学校に放り込んできた。というわけらしい。
迷惑料としての多大な寄付と断ったらどうなるかという権力者らしい脅しに屈しざるを得ず泣く泣く引き受けた叔父だが、理事長が学生生活にまで力を及ぼすことも不可能に近い。まだ学生な恋人にも頼んでみるとは言っていたが、むしろ迷惑を被る側の立場な恋人にかかる負担を軽減するには俺にすがるしかなかった、だそうだ。
まぁ、俺が叔父の立場でも高校生の甥っ子に頼み込むのは同じだろうしなぁ。
ちなみに、頼まれたのは3月も中旬で正規に転入試験など受ける時間的余裕はなかったので、諸事情による裏口入学に相成った。クラスも王道転校生と同じクラスになるように手配されているそうで。
面倒事を引き受けるかわりに特権をいくつか認めさせて、交渉成立。
年度が変わって4月の5日。俺はとうとうこの王道学園に足を踏み入れた。
って。俺も立派に王道転校生じゃんね、とたった今気がついてガックリしたのは内緒にしてください。
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