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第31話
「いい?もう陽向を連れ戻そうとする奴はいない。誰かがじっと陽向を見ていても、話しかけてきても、それは陽向を過去の檻に戻そうとする人達じゃない。今の陽向に関心を持っただけだ」
「うん」
「元々そんな奴らの好きにさせるつもりは無かったけど、もう俺と陽向を引き離そうとする奴はいないんだよ」
そうか・・・もう怯えずにずっと征治さんの傍に居られるんだ。やっとすこしリアルに感じて、それが嬉しくて体ごと征治さんの方へ向き直り抱きついた。征治さんの首筋に鼻を埋める。
征治さんが僕の首に手を添えて言った。
「イメージして。もうここにあった首輪も足についていた足枷もバラバラになって無くなったんだ。悪い魔法をかけた魔法使いが消えたからね。陽向は自由に飛べるようになったんだよ」
そして優しく微笑むとキスをしてくれた。
気持ちが緩んだせいか、征治さんの匂いを傍に感じているからか、包み込むような甘いキスにぽうっとなった。
ああ、幸せだ。気持ちいい。気が付いたら「もっと」と口走ってしまっていた。
途端に征治さんの目がキラッと光った気がした。
「続きはこっちだ、バンビちゃん」
そう言うと征治さんは僕の手を引いてベッドルームの扉を開けた。
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「だって、特別な日でしょ?」
「・・・僕が自由になれた日だから?」
「それもある」
「他には何があるの?」
僕を見下ろす征治さんが少しはにかみながら笑う。
「凄く・・・嬉しかったんだ。陽向が初めて誰かに俺のことを『恋人だ』って紹介してくれたから」
征治さんも翔太もそれぞれに僕のことを心配してくれるから、言葉で説明しなくても二人を会わせれば人となりでお互いに安心して貰えると思っての行動だった。
僕にとって征治さんは最愛の人で恋人なのは当然なのだけれど、それを対外的に示すことがこんなに征治さんを喜ばせるとは。
「ねえ、『俺と会えて生きててよかった、幸せだと思えた』って言ったのは本心?それとも翔太を安心させるため?」
そんなの、わかってるくせに。
「違うよ・・・本当に今、幸せ過ぎて・・・タイムマシーンがあったら、死にたいって思っていた過去の自分に『もう少し頑張れ、そうすればまた征治さんに会えて、夢みたいに幸せな日が来るから』って言いに行く。
あ、でもそんなことしたら未来が変わっちゃう?征治さんに再会出来ない未来になったりしたら絶対に嫌だ・・・僕には征治さんしかいないん・・・んんっ」
最後の台詞は征治さんに飲み込まれた。
強く抱き込まれ、苦しくなるほどのキスの後、征治さんが囁いた。
「陽向・・・俺も陽向がいない世界なんて、もう想像できない」
少し切なげに揺れた瞳に愛しさが溢れだす。自分から征治さんの顔を引き寄せ、口づけた。
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