30 / 144

第30話

「ん・・んんっ・・・はぁ」 角度を変えてまた深く口内を貪られて、後頭部が痺れるような感覚を覚える。 「んん・・・」 「陽向・・・」 熱い息とともに名を呼ばれ、首筋を辿る征治さんの唇に、体の芯が震える。 いつもにも増して熱心に僕の弱点を責め続ける征治さんに、僕は無意識に征治さんの頭に指を差し入れて髪を掴んでしまう。 耳朶を吸われ、喉元を甘噛みされ、噛み跡を熱い舌に繰り返しなぞられただけで、もう僕はぐずぐずに溶け始めている。 「陽向」 征治さんが間近で僕の顔を見下ろす。大きな手が僕の頬を撫で、こめかみの髪を梳いた。 僕も両手で征治さんの頬に触れる。優しいけれど欲情も滲ませたその表情にうっとりする。 「征治さん・・・なんか今日、すごく情熱的」 「だって、特別な日でしょ?」 「・・・僕が自由になれた日だから?」 「それもある」 ************ レイ、いや、翔太と別れて征治さんの部屋に帰って来た。 帰り道も、二人で夕食を作り食べている時も、なんだかふわふわとした浮遊感に包まれていて、変な感じだった。 風呂上がりに「おいで」と言われてソファーに座る征治さんの脚の間に収まると、後ろから長い腕を回され、肩に顎を載せられる。 「どんな気分?」 今日の翔太との再会や沢井の死のことを言っているのだろう。夕食時に翔太から聞いた話は全て話した。だから、征治さんの問いは僕がどう感じているかを聞いているのだ。 「翔太が、口調は随分変わっていたけど中身は僕が知っている彼のまんまで嬉しかった。 信じてたけど、もしもって思う気持ちがやっぱりあって・・・ここ数日凄く緊張して、夜もあんまり眠れなかった。だから、まずその緊張状態から解放されてほっとしたかな」 「うん、俺もそうだな。やっぱり心配が先に立って、随分取り越し苦労をした。まさかあんな話だと思わないしね」 「うん」 「それから翔太が幸せそうで嬉しかった。翔太の父親はアル中で、母親は早々に父親に見切りをつけて家を出てた。翔太は酒が切れては暴れる父親に最後は売り飛ばされたんだ。そんな環境で育ってきたのに、早く結婚したい、子供いっぱいの温かい家庭を作りたいって。 あんなに面倒見が良くて優しいんだから、きっといい夫にも父親にもなるよね?」 「そうだね。彼は真っ直ぐで男気もあるしね」 「沢井のことは・・・正直まだ実感が湧かない。だからなのかなあ・・・翔太はあんなにすっきりしてたけど、僕の中のモヤモヤがどこかに吹き飛んだって感じはしてない。僕が根暗なのかな」 「翔太以上に陽向の傷が深かったんじゃないかな。追いかけられる強迫観念は沢井のところから逃げ出したせいだけど、それ以前の体験の影響が大きかったんだ。だけど、陽向。よく聞いて」 そう言って征治さんは僕の頭をクイッと90度回転させ、自分も横から僕の顔を覗き込むようにして目を合わせる。

ともだちにシェアしよう!